先に結論
SNS担当を増やしたのに反応が増えないのは、売れる材料のある現場と、発信する人が離れているからかもしれません。接客・営業の現場の質問を発信の材料にする5手順と、個人アカウントを乱立させず、芯の下に複数人が立つ設計、初心者向けのメール配信の始め方を整理します。
SNS(ネット上の交流の場)の担当者を増やしたのに、反応が増えない。そんな悩みを聞くことがあります。投稿の回数も、担当の人数も増やした。それでも、問い合わせや来店につながる感触がない、という状態です。
先に結論を書きます。伸びない会社に共通しているのは、担当者の数ではなく、「売れる材料がある現場」と「発信する人」が離れていることです。 お客さまの質問や迷いを毎日聞いているのは、接客や営業の現場の人です。その人たちの言葉を、発信の中身(コンテンツ)にできているかどうかが、分かれ目になります。そしてもうひとつ。現場の人を前に出すなら、個人のアカウントを乱立させる前に、「何の悩みに答える場なのか」という芯(コンセプト)の下に、複数人が立つ設計にしておくことをおすすめします。
本稿では、発信を担当者ひとりに任せて行き詰まっている中小企業の経営者・責任者の方に向けて、考え方と、今日から書き出せる手順を整理します。
かえるちゃんが、投稿の予定表を見ながら首をかしげたことがあります。「投稿の材料は、どこから来ているのケロ? お客さんの声は、この表に入っているのかな」——この問いが、本稿の出発点です。
SNS担当を増やしても伸びない|一般に言われていること
まず、一般的に言われている対策を見ておきます。発信が伸びないときの定番は、次のようなものです。
- 担当者を増やす、または専任にする
- 投稿の回数を増やす
- 流行の形式や話題に合わせる
- 外部の運用代行に任せる
- 分析ツールで数字を見て、改善を重ねる
どれも間違いではありません。体制を整えることは大切ですし、場面によっては十分に効きます。ただ、ここで一度立ち止まって考えたいことがあります。増やした人手や回数は、「何を話すか」という中身の問題まで解決しているでしょうか。
違和感|担当者が増えても、材料が増えていない
担当者を増やしても伸びない会社では、次のような状態になっていることがよくあります。
- 発信の担当者が、現場の人にネタを聞きに行く時間がない
- 現場の人は、発信は担当者の仕事だと考えていて、自分の言葉を出す場がない
- 結果として、商品の紹介、季節のあいさつ、他社でも言えそうな一般論が並ぶ
- 担当者が増えるほど、「何を書くか」の相談が増え、現場からは遠ざかる
つまり、発信する人は増えているのに、材料の入り口は広がっていないのです。
もうひとつ気になるのは、「売る人」と「発信する人」を分けすぎていることです。役割を分けると効率はよく見えます。しかし、お客さまが何に迷い、どの一言で安心したのかは、売る場に立っている人が一番よく知っています。その情報が発信に流れ込まない仕組みだと、発信は現場から切り離された「広報の作文」になりやすいのです。
KAKUKATA視点|売れる材料は、現場の質問にある
林英明の見方を書きます。発信の材料は、思いついたネタを探すものではなく、お客さまがすでに口にしている質問や迷いを拾うものだと考えています。
ここで、言葉を一度ほどきます。コンテンツは、ふつうの日本語で言えば「発信の中身(読みもの、動画、投稿など)」のことです。そしてコンセプトは、「この場は誰のどんな悩みに、どんな立場で答えるのか、という芯」のことです。
現場で聞く質問は、そのまま発信の材料になります。たとえば、次のような形です。
| 現場で聞く場面 | お客さまの言葉(例) | 発信の材料にするなら |
|---|---|---|
| 接客・店頭 | 「これ、自分に合うのでしょうか」 | 選ぶ基準を、迷う理由と一緒に書く |
| 商談・営業 | 「他社と何が違うのですか」 | 違いを、相手の状況別に言葉にする |
| 問い合わせ対応 | 「結局、何から始めればいいですか」 | 最初の一歩を、順番つきで案内する |
| 導入後のフォロー | 「思ったより手間がかかりました」 | つまずく所と、先に決めておくことを共有する |
| 断られた場面 | 「今回は見送ります」 | 見送られた理由を、次の説明の改善に使う |
この表の右側は、他社が簡単にはまねできない材料です。なぜなら、自社のお客さまの質問は、自社の現場にしか集まらないからです。
さらに、同じ質問に答えるにも、事実の紹介にとどまるか、「私はこう読んでいる」という見立てまで添えるかで、読み手の受け取り方は変わります。何が起きたかだけなら、他でも読めます。その人がそれをどう捉え、どうしたいと考えているか。そこに、読む理由が生まれます。
個人アカウントを乱立させる前に|コンセプトの下に複数人が立つ
現場の人を前に出すと、もうひとつの問題が出てきます。人にファンが付くのは強みですが、その人に依存しすぎると、会社の外に出ていくリスクが生まれることです。かといって、人を隠すと、発信は個性のない文章になります。
そこで、おすすめしたいのが、芯(コンセプト)を上に置き、その下に複数の人が立つ形です。雑誌にたとえると分かりやすいでしょう。雑誌には「誰のどんな悩みに答える雑誌か」という芯があり、その中に複数の書き手の連載が載っています。読者は書き手にも愛着を持ちますが、買っているのは雑誌そのものでもあります。
| 観点 | 個人アカウントを乱立させる | 芯の下に複数人が立つ |
|---|---|---|
| 読者が見ているもの | 人の人気 | 芯と、そこに立つ人の組み合わせ |
| 担当が替わったとき | 発信が止まりやすい | 書き手が替わっても、芯が残る |
| 会社としての一貫性 | 発信ごとにばらつく | 同じ悩みに答える形でそろう |
| 発信を始める人の負担 | 場づくりから自力で始める | 型があり、自分の担当部分に集中できる |
| 独立や離職への備え | 影響が大きい | 芯が会社側に残るため、影響が小さくなる |
ここで大切なのは、芯が粗いままでは、複数人が立っても散らばるだけだという点です。中小企業で意外と手薄になりやすいのは、発信の技術より、この芯の言葉づくりです。「誰の、どんな悩みに、どんな立場で答えるのか」を一文で言えるかどうか。それが決まっていないと、担当者を増やしても、発信は一貫しません。
実務①|現場の質問を材料に変える5つの手順
実際に手を動かすための手順です。紙やメモ1枚で始められます。
- 現場の質問を集めます。 接客・営業・問い合わせの担当者に、最近お客さまから聞かれたことを3つずつ挙げてもらいます。新しく調査を始める必要はありません。
- 似た質問をまとめます。 同じ悩みから出ている質問を、ひとつの塊にします。
- 塊ごとに、答えの骨組みを決めます。 結論、理由、見立て(その人はどう読むか)の3点を書き出します。
- 誰の言葉で出すかを決めます。 その質問を一番多く受けている人を書き手にします。広報担当は、聞き取りと整えを受け持ちます。
- 芯に合うかを確認します。 書いた内容が「誰の、どんな悩みに答える場か」の一文に合っているかを見て、外れるものは別の場に回します。
実務②|初心者は、メールで定期的に届ける読みものから
どこから始めるかで迷う場合は、ニュースレターから始める方法があります。ニュースレターは、ふつうの日本語で言えば「メールで定期的に届ける、短い読みもの」です。
向いている理由は、次のとおりです。
- 読む人が、自分で登録した人なので、関心の高い人に届く
- 流行の形式に合わせなくてよく、書きたいことを落ち着いて書ける
- 書き手の顔写真や一言を添えるだけで、人の温度が伝わる
- 書き手が替わっても、型を引き継ぎやすい
内容は、実務①の「現場の質問への答え」で十分です。顔写真と、「この質問を、私はこう受け止めました」という一段落を添えます。これだけで、書き手の人柄と見立てが伝わります。メールの配信を続ける設計についてはメールマーケティングの始め方|中小企業が配信を続ける設計に、SNSで集めたつながりを手元に残す考え方はフォロワーが増えてもリストが残らない理由|SNSから自社リストを残す方法にまとめています。
実務③|AIに任せる部分と、人が持つ部分
聞き取ったメモの整理、似た質問のグルーピング、下書きの骨組みづくりは、AIが手伝いやすい部分です。ただし、何を見立てとして出すかは、人が決めます。 自動で量産された文章は、どれも似た顔になりやすく、書き手の読みが入りません。AIは材料を整える道具、見立ては現場の人の仕事、と分けておくと、発信が現場から離れにくくなります。発信の役割分担についてはSNSとホームページの役割分担|どちらを優先すべきかも参考になります。
よくある失敗
この考え方を取り入れるときに起きがちな失敗を挙げます。
- 現場に「発信もやって」と丸投げしてしまいます。 接客や営業の時間を削って書かせると続きません。聞き取りと整えは、担当者が受け持ちます。
- 芯を決めないまま、書き手だけ増やしています。 発信がばらつき、会社として何の話をしているのか分からなくなります。
- 目立つ人に任せきりになっています。 発信の型と芯を会社側に持たないと、その人への依存が強まります。
- お客さまの質問を、そのまま公開してしまいます。 お客さまが特定できる内容は避け、質問の形を一般化して使います。
- 見立てを入れず、情報の紹介だけで終わっています。 読む理由が薄くなります。「私はこう読んだ」を一段落だけ添えます。
よくある質問
SNS担当者は、いらないのですか?
いらないわけではありません。担当者は、現場から材料を集め、整え、出す役割に回ると力を発揮します。書く人と整える人を分ける形です。
現場の人が、発信を嫌がる場合はどうすればよいですか?
最初から顔や名前を出してもらう必要はありません。まずは質問を集めるところから始め、本人が納得した形で、少しずつ前に出てもらうのが安全です。
個人にファンが付いて、独立されるのが心配です。
その心配は自然です。だからこそ、芯と型を会社側に置き、複数人が立つ形にしておきます。人への信頼は大切にしつつ、会社の価値が人に付きすぎない設計にします。
小さな会社でも、複数人で発信できますか?
できます。人数は少なくても、現場の人が交代で一段落ずつ書くだけで十分です。大切なのは人数より、同じ芯の下に並ぶことです。
まず何から始めればよいですか?
現場の人に、最近お客さまから聞かれた質問を3つずつ挙げてもらうことです。それを材料に、すでにある発信の次の1本だけを、現場の質問への答えに差し替えてみてください。新しい場や新しいアカウントを作る必要はありません。
まとめ|次に決めること
発信が伸びないとき、最初に決めたいのは、担当者を増やすかどうかではなく、材料を現場のどこから受け取るかです。
- 現場の人に、最近の質問を3つずつ挙げてもらう
- 発信の次の1本を、現場の質問への答えに差し替える
- 「誰の、どんな悩みに答える場か」を、一文で書き出す
まずは1本の差し替えから、で十分です。発信全体の設計はコンテンツマーケティングの始め方|中小企業の現実的な設計も参考になります。
