先に結論
施策や予算を均等に分けて「分散できている」と感じていませんか。均等配分は、守りきれず当たりきらない真ん中になりがちです。バーベル戦略は、安定領域と挑戦領域の両端に寄せ、先に壊れない構造をつくる考え方です。中小企業の経営での使い方を、ひとり社長・少人数の会社向けに整理します。
広告も、既存のお客さまのフォローも、新しい商品づくりも、少しずつ全部やっている。ひとつに賭けていないから、リスクは分散できているはず——ひとり社長や少人数の会社で、よく聞く感覚です。
結論から先に書きます。均等に少しずつ張る配分は、見た目は分散でも、実際には「どれも守りきれず、どれも当たりきらない真ん中」にいることがあります。中小企業のバーベル戦略の軸は、失敗しても事業が止まらない安定領域(超守備)と、損失の上限を決めたうえで当たれば大きい挑戦領域(超攻撃)の両端に寄せ、中途半端な真ん中を減らすことです。本質はハイリスクを取ることではありません。予想が外れても、先に壊れない構造をつくることです。
かえるちゃんが、どれも同じ太さで並んだ施策リストを眺めて、小さくつぶやくことがあります。「全部そこそこって、どれが倒れても困らないってこと? それとも、どれも頼れないってこと?」——この問いが、本稿の出発点です。
バーベル戦略とは|意味と、経営でのリスク分散との違い
まず一般論です。リスク分散は「卵をひとつのカゴに盛るな」とよく説明されます。取引先・商品・集客経路をひとつに頼りすぎると、その一か所が崩れたときに事業全体が止まる。だから複数に分ける。これは正しい考え方です。
ここで言葉を一度ほどきます。
バーベル戦略は、ふつうの日本語にすると「守りと攻めを両端に分けて持ち、真ん中の中途半端な賭けを減らす置き方」です。筋トレのバーベルのように、重りが両端にあり、真ん中の棒には重りがない形からこう呼ばれます。金融の世界で広まった考え方ですが、本稿ではさらに狭く定義します。少人数の事業で、「倒れない土台」と「小さく試す実験」を分けて持ち、どちらでもない施策を減らす設計です。
両端の中身は、次のように整理できます。
- 超守備:失敗しても事業が止まらない側。既存のお客さま、すでに結果が分かっている集客、手元資金の余裕など
- 超攻撃:損失の上限を先に決め、当たったときだけ大きく伸びる側。新しい商品の試作、新しい経路の検証など
もうひとつ、よく一緒に語られる言葉があります。ブラックスワン、ふつうの日本語では「めったに起きないと思われていたのに、起きると影響がとても大きい出来事」です。見たことがないことと、存在しないことは別です。バーベル戦略の出発点は、未来を当てることではなく、外れたときに備える順番にあります。
均等に分けるリスク分散が危ない理由|ミドルリスク(中途半端な真ん中)を避ける
違和感は、分散すること自体にはありません。均等に分けることと壊れにくくすることを、同じものとして扱ってしまうことにあります。
たとえば、こんな状態です。
- 広告・紹介・SNS・新商品に、少しずつ同じくらいの時間とお金を割いている
- どの施策も「やめるほど悪くないが、伸ばすほど良くもない」まま続いている
- 新しい挑戦に、いつまでに・どこまで失敗したらやめるか、が決まっていない
- 商品が「そこそこの価格で、そこそこの範囲」になり、入口としても継続先としても選ばれにくい
真ん中の施策は、リスクが測りにくいのが厄介です。大失敗はしないので止める理由がなく、大当たりもしないので伸ばす理由もない。気づくと、限られた時間と手元資金が、いちばん判断しにくい場所に吸い取られています。安心感があることと、安全であることは別です。
| 見分けの軸 | 超守備 | 中途半端な真ん中 | 超攻撃 |
|---|---|---|---|
| 失敗したとき | 事業は止まらない | じわじわ体力を削る | 損失は決めた上限まで |
| 当たったとき | 大きくは伸びないが安定 | そこそこで頭打ち | 大きく伸びる余地がある |
| やめる基準 | 基本は続ける | 決まっていないことが多い | 期限と上限を先に決める |
| 商品の姿 | 継続価値が圧倒的に深い | 価格も範囲もそこそこ | 圧倒的に入りやすい入口 |
| 判断のしやすさ | 分かりやすい | 最も判断しにくい | 分かりやすい |
この表は、どれか一つを捨てるためのものではありません。いまの施策や商品が、表のどの列にいるかを見るためのものです。真ん中の列に並ぶものが多いほど、分散しているつもりで危ない場所にいる可能性があります。
中小企業のバーベル戦略|安定領域を先に固め、挑戦領域は損失の上限を決める
林英明の現場感覚では、少人数の会社ほど、真ん中の施策に時間を取られやすいです。人も時間も限られているので、「全部少しずつ」は誠実に見えて、実際にはどれも深く手を入れられない状態になりがちです。
ここでの見立ては、バーベル戦略を「大胆に攻める話」として読まないことです。順番はいつも守りが先です。
- まず、何が起きても事業が止まらない土台を確保する(既存のお客さま、結果が分かっている導線、手元資金の余裕)
- そのうえで、失っても致命傷にならない範囲だけを実験に回す
- 実験は、期限と上限を決めて、当たったものだけを守り側へ移していく
配分の目安として、「守り8〜9割、実験1〜2割」という言い方がされることがあります。本稿でもこの数字は考え方のイメージとして紹介するにとどめます。業種や手元資金、時期によって適切な比率は変わりますし、KAKUKATAが測定した結果の数字でもありません。大事なのは比率そのものより、「守り側」と「実験側」を分けて書けるかどうかです。
商品設計にも同じ構造があります。いちばん選ばれにくいのは、入口としても重く、継続先としても浅い、真ん中の商品です。寄せる先は二つあります。
- 圧倒的に入りやすい入口:初めての人が迷わず試せる。範囲が小さく、何が手に入るかが一目で分かる
- 圧倒的に深い継続価値:続けるほど手放しにくくなる。伴走、蓄積、関係の深さがある
入口を軽くし、奥を深くする考え方は、ビジネスプロフィールの書き方|全部載せにしない、入口と奥の分け方でも、プロフィールや紹介文の設計として整理しています。商品でも発信でも、真ん中で全部を済ませようとしないことが共通点です。
AIとの関係でいえば、実験側のコストは以前より下げやすくなっています。試作の文章、比較表、小さな告知ページなどは、AIの手を借りて短い時間でつくれることが増えました。だからこそ、実験の数を増やす前に「どこまで失ったらやめるか」を先に決める方が、守り側を削らずに済みます。
重要な注記です。本稿は、特定の発信者や媒体の主張を紹介する記事ではありません。読者が自社の施策と商品を見直すときの判断フレームとして書いています。数字は考え方のイメージであり、成果を約束するものではありません。
バーベル戦略を経営に使う5つの手順|施策と商品の見直し
会議や一人作業で使えるよう、手順に落とします。新しい管理シートを増やすより、いまある施策リストや商品説明を直す方が先です。
- いまの施策を「守り/実験/真ん中」に分けて書く:既存の施策リストの横に、一文字ずつ印をつけるだけで十分です。
- 真ん中から1つ選び、守りに寄せるか、実験に寄せるかを決める:守りに寄せるなら、続ける前提で手順を固めます。実験に寄せるなら、期限と上限を決めます。
- 実験側には、始める前に「やめる基準」を一行で書く:いつまでに、どこまで失ったらやめるか。決めずに始めた実験は、真ん中に居座りやすいです。
- 商品を1つ選び、入口か継続価値のどちらかに寄せる:価格も範囲もそこそこに見える商品の説明を1ブロックだけ直し、「入りやすさ」か「深さ」のどちらかを明確にします。
- 守り側が薄くなっていないかを最後に確認する:実験を増やした結果、既存のお客さまへの対応や手元資金の余裕が削れていたら、実験を1つ止めます。
安定領域(守り)の最小セット
- 既存のお客さまへの対応を、崩さない最低限の頻度で決める
- 結果が分かっている集客経路を1つ、止めない前提で残す
- 手元資金の余裕を、実験に回さない線として決める
挑戦領域(実験)の最小セット
- 実験は同時に増やしすぎず、1〜2本に絞る
- 期限・上限・やめる基準を、始める前に一行で書く
- 当たった実験だけを、守り側の手順に移す
真ん中の施策を減らすときは、「やめること」を決める作業にもなります。やめる仕事の決め方は、AIを導入する前に、『やめる仕事』も決めるもあわせてご覧ください。
バーベル戦略(経営)に関するよくある質問
バーベル戦略は、結局ハイリスクな攻め方ではありませんか?
逆です。先に守り側を厚くし、実験側は失っても致命傷にならない範囲に限定します。攻める部分は小さく、上限が決まっていることが前提です。
守りと挑戦の配分比率は、そのまま使ってよいですか?
考え方のイメージとして受け取ってください。業種や手元資金、時期で適切な比率は変わります。本稿の数字は実測値ではありません。まずは守りと実験を分けて書けるかどうかから始めます。
経営資源を均等に分けるのは、いけないことですか?
いけないわけではありません。ただし、均等に分けた結果、どの施策にもやめる基準と伸ばす基準がないなら、真ん中に偏っている可能性があります。分け方より、それぞれの役割が言えるかを確認します。
商品は、入口と継続価値の両方を持ってはいけませんか?
両方を持つこと自体は問題ありません。避けたいのは、1つの商品に両方を中途半端に盛ることです。入口用の商品と、継続用の商品を分けて考える方が、選ぶ側にも分かりやすくなります。
まずは何から見直せばよいですか?
いまの施策リストに「守り/実験/真ん中」の印をつけてみてください。真ん中が多ければ、そのうち1つだけを、守りか実験のどちらかへ寄せるところからで十分です。
両利き経営とバーベル戦略は何が違いますか?
両利き経営は、いまの事業を磨いて深める「深化」と、新しい可能性を探す「探索」を、会社として両方こなす考え方です。バーベル戦略は、それを少人数の事業向けに「何が起きても止まらない土台」と「上限を決めた小さな実験」に分けて置き、どちらでもない中途半端な施策を減らす設計として使います。両者は似た向きの考え方ですが、バーベル戦略は特に、失敗したときの損失に先に上限を置く点を重く見ます。本稿は用語の厳密な比較ではなく、自社の施策を見直すための整理として書いています。
ポートフォリオ(投資の配分)の考え方とどう関係しますか?
ポートフォリオは、資金や時間をどこにどれだけ配るかの組み合わせのことです。バーベル戦略は、その配り方の一つで、均等に薄く配るのではなく、守りと攻めの両端に寄せ、真ん中を減らします。事業でいえば、既存のお客さまや結果が分かっている集客を守り側に、新しい商品や経路の試しを上限つきの実験側に置く、という見方になります。配分の比率は業種や手元資金で変わるため、本稿の数字は考え方のイメージです。
まとめ|バーベル戦略で、次に決めること
リスク分散の論点は、分ける数より先に、真ん中の置き方です。
- 施策と商品を「守り/実験/真ん中」に分けて言えるか
- 実験側に、期限・上限・やめる基準があるか
- 商品は、入口の入りやすさか継続価値の深さか、どちらかに寄っているか
この3つが言葉になると、「分散しているのに、なぜか苦しい」状態の切り分けがしやすくなります。正解の配分比率を一つに決める必要はありません。まずは、いちばん判断しにくい真ん中の施策を1つ見つけるところからで十分です。
施策や商品の置き方を整理したい場合は、関連記事もあわせてご覧ください。集客と収入の柱の増やし方はパルテノン戦略とは、入口と奥の分け方はビジネスプロフィールの書き方|全部載せにしない、入口と奥の分け方、やめる仕事の決め方はAIを導入する前に、『やめる仕事』も決めるにまとめています。
