先に結論
料金の伝え方で迷ったら、値下げの前に、口頭で値段を言うときの最初の一言を変えてみます。人は価格そのものより、見慣れた物差しで一瞬のうちに「高い」「安い」を決めがちです。値段を言う前にその物差しを少しだけ揺らし、すぐに新しい見方を渡す。時間に換える/何件で元が取れるかで言う/お客さま1人あたりで言う/買わないことで失っているものから入る、の4つの言い換えと、自社の言い方を作り直す手順を整理します。
商談の終わりに料金をお伝えした瞬間、相手の表情が少し曇る。そのあとどれだけ中身を説明しても、「高い」という空気が戻らない——料金を口頭でお伝えする機会の多い経営者の方や、伴走支援をしている方から、よく聞く場面です。そこで値下げや特典の追加を考えたくなりますが、その前に試せることがあります。
結論から先に書きます。値段を下げる前に、値段の言い方を変えます。人は料金を聞いたとき、中身を比べる前に、いつも使っている物差しで一瞬のうちに「高い」「安い」を決めてしまいがちです。だから、料金の最初の一言で、その物差しを少しだけ揺らし、すぐあとに新しい見方を渡します。やることは、次の3つです。
- いまの料金の言い方を、そのまま書き出す(どの単位で、どんな順番で言っているか)
- 4つの言い換えから合うものを選ぶ(時間に換える/何件で元が取れるかで言う/お客さま1人あたりで言う/買わないことで失っているものから入る)
- 声に出して聞き比べ、「揺らしたまま戻れない言い方」と「あおりに聞こえる言い方」を捨てる
かえるちゃんが、商談メモの料金の行を指さして言うことがあります。「この数字を言う前に、相手は何と比べると思う?」——本稿は、この問いから始めます。
なお、提供の仕方そのものを作り直す話は値下げしないで売るには、価格より先にお客さまの「面倒」と「待ち時間」を減らすにまとめています。本稿は、中身も料金も変えずに、口頭での伝え方だけを変えるところに絞ります。
料金の伝え方|一般的に言われていること
まず一般論です。料金の説明の仕方として、よく挙がるのは次のようなものです。
- 料金は最後に言い、先に価値を十分に説明する
- 月額や1日あたりに割って、小さく見せる
- ほかの選択肢と比べられるように、複数の料金の段階を用意する
- 料金の内訳を見せて、納得してもらう
- 自信を持って、はっきり言う
どれも、もっともな方法です。とくに「割って小さく見せる」は、多くの人がすでに使っています。
ただ、これらの多くは「料金をどう見せるか」の工夫で、相手が料金を聞いた瞬間、頭の中で何と比べているかにはあまり触れていません。
違和感|説明する前に「高い」が決まっている
違和感は、料金を聞いた相手の頭の中にあります。
私たちは、ふだん何かを買うたびに「これは本当に適正な値段か」をゼロから考えてはいません。そんなことをしていたら、飲み物ひとつ買うのにも時間がかかります。代わりに、見慣れた金額の幅を、見慣れた物差しで当てはめて、ほぼ自動的に判断しています。
困るのは、この判断が説明より先に終わってしまうことです。料金をお伝えした瞬間に「この種類のサービスでこの金額は高い」と決まってしまえば、そのあとの説明は「高いものの言い訳」として聞かれます。丁寧に説明するほど、かえって押しつけに聞こえることさえあります。
| 見分けの軸 | 値下げで対応する | 料金の言い方を変える |
|---|---|---|
| 変えるもの | 金額 | 料金を聞いた瞬間に使われる物差し |
| 手元に残る利益 | 薄くなる | 変わらない |
| 相手が比べる相手 | 同業の料金 | 時間・成果・お客さま1人・いま失っているもの |
| 準備の手間 | 社内の合意が要る | 言い方の書き出しと練習だけ |
| 気をつけること | 一度下げると戻しにくい | あおりや言葉遊びに聞こえないようにする |
これは値下げを禁じる話ではありません。下げる判断はあとからでもできます。先に、いちばん手軽で利益を削らない順番から試しましょう、という話です。
KAKUKATA視点|物差しを少し揺らし、すぐに新しい見方を渡す
林英明が商談の場面を見ていて感じるのは、「高い」と言われる料金の多くが、中身ではなく、比べられている相手で損をしているということです。同じ金額でも、「同業の相場」と比べられるか、「社長の時間」と比べられるかで、受け取られ方は大きく変わります。
ここでの考え方は、2段階です。
- 揺らす:料金の最初の一言を、相手がふだん使っている物差しでは測れない形で言う。相手の頭が一瞬「ん?」と止まります
- 渡す:止まったその直後に、新しい物差しを渡す。「つまり、こういうことです」と、分かりやすい意味につなげます
大事なのは、揺らしたままにしないことです。揺らすだけでは、相手を困らせるだけです。揺らしたら必ず、すぐに分かりやすい意味へ戻します。
小さな例です。以下は説明のための例です。月額で〇〇円のサービスを、あえて先に1年分の合計でお伝えし、一瞬「大きいな」と感じてもらったあとで、「月にすると〇〇円、1日にするとこれくらいです」と戻す言い方があります。最初に大きく聞こえた分、戻したあとの金額が身近に感じられます。ただ、これは割って見せる工夫の延長です。ここから先は、物差しそのものを入れ替える4つの言い換えを紹介します。
4つの言い換えの一覧
| 言い換え | 新しい物差し | 最初の一言の例(金額なし) | 向いている場面 | 気をつけること |
|---|---|---|---|---|
| ① 時間に換える | 時間 | 「この料金は、社長の手が離れる時間に換えると、どれくらいだと思われますか」 | 業務の代行・仕組みづくり | 減る時間を大きく言いすぎない |
| ② 何件で元が取れるかで言う | 必要な成果 | 「御社の商品で、何件決まれば、この料金は消えるかを先に計算してみます」 | 集客・営業の支援 | 件数を約束しない。計算の前提を一緒に確かめる |
| ③ お客さま1人あたりで言う | 事業の数字 | 「お客さまお一人あたりにすると、いくらの投資になるかでお話しします」 | 来店型・会員型・顧客数の多い事業 | 相手の顧客数は相手に教えてもらう |
| ④ 買わないことで失っているものから入る | いま失っているもの | 「この仕組みがない状態が続くと、1年で〇〇円です」 | 放っておくと損が積み重なる課題 | 言い切らず、相手に考えてもらう余白を残す |
① 時間に換える
料金をお金ではなく時間で言うと、相手の物差しはいったん外れます。お金なら「この種類のサービスにしては高い」と比べられますが、時間には同業の相場がないからです。そのうえで、「この仕組みで、社長が毎月この作業から手を離せるなら、何年使えるものか考えてみてください」とつなげます。比べる相手が、同業の料金から社長ご自身の時間に変わります。
② 何件で元が取れるかで言う
集客や営業の支援なら、料金を「必要な成果」に換えて最初に伝えます。「料金は〇〇円です」ではなく、「御社の商品なら、何件決まればこの料金は回収できるか」を先に一緒に計算します。計算に使う客単価や利益の幅は、こちらで決めつけず、相手に教えていただきます。相手が自分の数字で計算したものは、相手にとって納得しやすい物差しになります。ただし、件数が決まることを約束する言い方にはしないでください。
③ お客さま1人あたりで言う
「1日あたり〇〇円」と割る言い方はよく使われますが、1日という単位は、相手の事業とはつながっていません。そこで、相手のお客さま1人あたりに割ります。年間のお客さまの数で料金を割ると、「お客さま1人にこれだけ上乗せして投資し、それ以上に返ってくるか」という、事業の言葉で考えてもらえるようになります。お客さまの数は、相手から伺った数字を使います。
④ 買わないことで失っているものから入る
人は、得をする話より、損を避ける話に動きやすいと言われます。そこで、料金の前に「この課題を放っておくと、何を失い続けているか」から入ります。たとえば例として、「この仕組みがない状態が続くと、1年で〇〇円です」とだけ言い、あえて「損をしています」までは言い切りません。相手から「え、何がですか?」と聞き返されたところから、失っているものの中身を一緒に確かめていきます。
ここで言い切らないのは、相手に自分で考えてもらうためです。こちらが「損をしていますよ」と断定すると、押しつけに聞こえます。相手が自分で「そういうことか」と気づいた損失は、こちらが言った損失よりずっと重く受け取られます。
一方で、④はいちばんあおりに近い言い方でもあります。失っている金額を大きく見せたり、不安だけをあおったりするのは、相手の信頼を損ないます。見立ては言い切っても、あおらない。この線を守ってください。根拠は相手から伺った数字にとどめ、相手と一緒に確かめられる範囲で使ってください。
料金の前に、相手の物差しを一緒に見つけておく
4つのどれを使うにしても、林英明がおすすめしているのは、料金の数字を先に言うのではなく、伺った話の中から、相手にとっての物差しを先に一緒に見つけておくことです。社長の時間が気になっている方には①、集客の成果を気にしている方には②、と、合う物差しは相手の事業によって変わります。言い換えは、相手の話をよく聞いたあとでなければ選べません。
AIとの関係でいえば、いまの言い方の書き出し、4つの言い換え案の下書き、計算の前提の整理は、AIが手伝いやすい部分です。商談の準備にAIを使う方法はオンライン商談でのAI活用にもまとめています。一方で、どの物差しを選ぶか、どこまで言い切るかは、相手の顔を見て人が決めます。
重要な注記です。本稿は、言い方を変えれば必ず売れることを約束するものではありません。例はすべて説明のためのもので、金額は〇〇円と伏せています。
実務|自社の料金の言い方を作り直す手順
やることは、一つに絞ります。新しい料金表や資料はつくりません。いちばんよく口頭でお伝えしている料金を1つ選び、その言い方だけを作り直します。
- いまの言い方を書き出す:商談で実際に言っている言い方を、言葉どおりに書き出します。どの単位(総額・月額・回数あたり)で、説明の前か後か、も書きます。
- 相手の物差しを想像する:相手がその金額を聞いたとき、何と比べていそうかを書きます。同業の料金、以前頼んだ別のサービス、自分で頑張った場合など。
- 4つから2つ選ぶ:表の4つの言い換えから、自社のサービスに合いそうなものを2つ選びます。
- 最初の一言と、戻し方をセットで書く:揺らす一言と、その直後に渡す「つまり、こういうことです」を、必ず組で書きます。
- 声に出して録音し、聞き比べる:紙の上で良く見えても、声に出すと不自然なことがあります。自分で聞いて、相手の立場で違和感を確かめます。
- 捨てる基準で選ぶ:揺らしたまま戻れない言い方、あおりに聞こえる言い方、言葉遊びに聞こえる言い方は捨てます。
- 相手の数字を伺う質問を用意する:②〜④は相手の数字が要ります。商談の前半で自然に伺える質問を1つ決めておきます。
言い方の前後のイメージです。以下は例文です。
- 前:「料金は月額〇〇円です。内容としては、〜」
- 後:「先に1つ伺ってもいいですか。いま、この作業に社長ご自身が毎月どれくらいの時間を使われていますか。……この仕組みを入れると、その時間から手が離れます。料金は月額〇〇円です。社長の時間に換えると、どう感じられますか」
よくあるつまずき
- 揺らすことばかり考えて、戻し方を用意していない
- 相手の数字を、こちらで勝手に見積もって話してしまう
- 4つ全部を一度の商談で使い、かえって分かりにくくなる
- ④を強く言いすぎて、不安をあおる話し方になる
- 紙に書いただけで満足し、声に出して試していない
よくある質問
料金は、説明の最後に言うべきですか?
順番より、料金を言う直前に相手が何を物差しにしているかが大事です。最後に言う場合でも、その前に相手の時間や成果、お客さまの数を一緒に確かめておくと、料金を聞いた瞬間に新しい物差しで受け取ってもらいやすくなります。
1日あたりに割って伝えるのでは、だめですか?
だめではありません。ただ、1日あたりという単位は相手の事業とつながっていないことが多く、「割って小さく見せている」と受け取られることもあります。お客さま1人あたりや、何件で元が取れるかのように、相手の事業の数字とつなげると、投資として考えてもらいやすくなります。
最初の一言で戸惑わせるのは、失礼になりませんか?
戸惑わせたままにすると失礼になります。だからこそ、揺らす一言と、すぐあとの「つまり、こういうことです」を必ずセットにします。相手が一瞬考えて、すぐに「なるほど」と納得できる流れなら、むしろ話を聞いてもらうきっかけになります。
「買わないと失っているもの」の金額は、どう出せばよいですか?
こちらで決めつけず、相手から伺った数字で一緒に計算します。たとえば、その課題にかかっている時間や、取りこぼしている問い合わせなどを相手に教えていただき、その場で確かめます。根拠のない大きな金額を出すと、あおりに聞こえて信頼を損ないます。
値下げは、もうしないほうがよいのですか?
してはいけないわけではありません。言い方を変えても合わない場合や、期間を区切った試しの料金が役に立つ場面もあります。ただ、言い方の見直しは利益を削らず、今日から試せます。先に試す順番として、おすすめしています。
まとめ|次に決めること
料金を伝えて「高い」と言われるときの論点は、金額をいくら下げるかより先に、料金を聞いた瞬間、相手が何と比べているかです。値段を下げる前に、値段の言い方を変える。この順番で考えます。
- いちばんよく口頭でお伝えしている料金を1つ選び、いまの言い方を言葉どおりに書き出せるか
- 4つの言い換え(時間/何件で元が取れるか/お客さま1人あたり/買わないことで失っているもの)から、自社に合うものを2つ選べるか
- 揺らす一言と戻し方をセットで書き、声に出して聞き比べ、あおりに聞こえるものを捨てられるか
この3つが決まると、「同業の料金と比べられる」状態から、「自分の事業の物差しで考えてもらえる」状態へ近づきやすくなります。まずは次の商談の前に、料金の最初の一言を1つだけ書き直すところからで十分です。
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