先に結論
忙しいのに前に進まない会社は、連絡や会議の件数ではなく「始まるまでの日数」を測ってみます。作業(決められたことを処理する)と仕事(大事な結果を前に進める)は別物です。紹介や相談から実際に始まるまでの日数を工程ごとに書き出すと、止まっている場所が見えます。いちばん重い工程を1つだけ選び、何をやめるか・変えるかを考える手順を整理します。
朝から晩まで連絡を返し、打ち合わせを重ね、資料もつくっています。社員もさぼっているわけではありません。それなのに、月末に振り返ると「で、何が始まったんだっけ」と手元に何も残っていない。中小企業の社長やひとり社長の方から、よく聞く感覚です。
結論から先に書きます。忙しさと前進は、別のものです。前に進んでいるかを知りたいなら、連絡や会議の件数ではなく、相談や紹介から実際に始まるまでの日数を測ってみます。やることは、次の3つです。
- 「作業」と「仕事」を分けて考える(作業=決められたことを処理すること、仕事=大事な結果を前に進めること)
- 直近の案件で、工程ごとにかかった日数を書き出す(数えるのは件数ではなく日数)
- 一番日数がかかっている工程を1つだけ選び、何をやめるか・変えるかを考える(少し縮めるのではなく、大きく縮める方法を探す)
かえるちゃんが、報告の「連絡しました」という一行を見て、首をかしげることがあります。「それで、いつ始まるの?」——本稿は、この問いから始めます。
忙しいのに成果が出ない|一般的に言われていること
まず一般論です。「忙しいのに成果が出ない」「会議や連絡ばかりで仕事が進まない」という悩みには、よく次のような対策が挙がります。
- 仕事に優先順位をつける
- 会議の数と時間を減らす
- 社員に任せて、社長は手を離す
- やることリストを見える形にする
- 目標を数字にして、毎週確かめる
どれも大事です。とくに「数字で確かめる」は、多くの会社がすでに取り入れています。
ただ、ここで一つ引っかかるのは、何を数えているかです。数字で追っているのに前に進まない会社では、多くの場合、数えているのが「どれだけ動いたか」になっています。
違和感|活動量を数えると、達成感だけが残る
違和感は、報告の言葉に表れます。
「先方に連絡しました」「日程の候補を送りました」「打ち合わせをしました」。どれも本当で、手も動いています。でも、社長やお客さまが本当に知りたいのは、その先です。「それで、いつ始まるのか」です。
ここで、言葉を2つに分けておきます。
- 作業:決められたことを処理すること。連絡を返す、資料をつくる、会議に出る
- 仕事:大事な結果を前に進めること。案件が始まる、商品が届く、お客さまの困りごとが一つ片づく
作業は仕事に欠かせない部品です。ただ、作業がいくら積み上がっても、大事な結果が動かなければ、それは仕事にはなっていません。
作業ばかりが増えやすいのには、理由があります。作業は終わりが分かりやすく、片づけるたびに「やった」という手ごたえが得られるからです。やることリストにチェックがつくのは気持ちがいいものです。だから、連絡件数や会議の回数のような活動量を目標の数字にすると、みんなが一生懸命になるほど、手ごたえだけが残って、肝心の結果が置いていかれることがあります。
| 見分けの軸 | 活動量を数える | 前進を数える |
|---|---|---|
| 測るもの | 連絡の件数、会議の回数、送った資料の数 | 相談や紹介から、実際に始まるまでの日数 |
| 報告の言葉 | 「連絡しました」「打ち合わせしました」 | 「〇日に始まります」「ここで止まっています」 |
| 増えると何が起きるか | 忙しさと手ごたえが増える | 待ち時間が減り、始まるのが早くなる |
| 見えるもの | がんばっている人 | 止まっている工程 |
| 気をつけること | 件数を増やすこと自体が目的になりやすい | 人を責める道具にしない |
なお、ここで言う「目標の数字」は、よくKPI(重要業績評価指標)と呼ばれるものです。難しく聞こえますが、平たく言えば「大事な結果に近づいているかを確かめるために、毎週見る数字」のことです。営業の場面での立て方の基本は営業KPIの立て方にまとめています。本稿では、その数字を件数から日数に置き換えてみるところに絞ります。
KAKUKATA視点|「始まるまでの日数」で、止まっている場所を見る
林英明が会社の進み方を見ていて感じるのは、前に進まない会社ほど、どこで止まっているかを誰も知らないということです。一人ひとりは自分の担当をきちんとこなしています。それぞれの持ち場では、何も問題が起きていないように見えます。ところが、案件全体を最初から最後まで通して見ている人がいないので、工程と工程のあいだで、静かに日にちが流れていきます。
そこで試してみたいのが、件数ではなく日数で見ることです。たとえば「紹介をいただいてから、最初の打ち合わせまで何日か」「打ち合わせから、見積もりを出すまで何日か」「見積もりから、実際に始まるまで何日か」。工程ごとに日数を並べると、どこが長いかは一目で分かります。
全体を止めている一番重い工程を、1つだけ選ぶ
工程を並べると、たいてい、ほかより明らかに長い場所が一つ見つかります。この、全体の流れを詰まらせている一番狭い場所のことを、ボトルネックと呼びます。日本語にすれば「全体の速さを決めてしまっている、一番遅い工程」です。
大事なのは、ほかの工程をいくら速くしても、この一番遅い工程が変わらなければ、全体はほとんど速くならないことです。だから、あれもこれも少しずつ直すのではなく、一番重い工程を1つだけ選んで、そこに手間とお金と時間を集めます。
もう一つ大事なのは、これは人を評価する話ではないということです。一番遅い工程の担当者が悪いのではありません。多くの場合、確認の順番や、誰かの返事待ち、昔からの決まりごとが詰まりの原因になっています。「誰が遅いか」ではなく「どこに手を入れると全体が速くなるか」を探す考え方です。
そして、一か所を直すと、次に遅い工程が新しい詰まりとして見えてきます。それで構いません。次はそこを直す。この繰り返しが、前に進む会社の形だと林英明は考えています。
「普通はこれくらいかかる」を疑う
もう一歩踏み込むと、詰まりの多くは「この工程は、普通これくらいかかるもの」という思い込みの上にあります。
- 見積もりは、社内で何人かに回してから出すもの
- この種類の案件は、立ち上げに時間がかかるもの
- 先方の返事を待ってから、次の準備に入るもの
こうした慣習は、社員にとっては守るべき前提です。社員は決まりの中で一生懸命に働き、管理する立場の人は決まりの中で上手に回します。でも、決まりそのものを変えられるのは、社長だけです。
ここで考えたいのは、「少し縮める」ではなく「大きく縮める」ことです。いまのやり方のまま少しずつ削ると、改善はしても、かかる日数の桁は変わりません。日数を大きく縮めたいなら、問いを変えます。「何をやめれば、何を変えれば、この工程は大きく短くなるか」です。
| いまの前提(例) | 少し縮める工夫 | 大きく縮めるために、やめる・変えること |
|---|---|---|
| 見積もりは何人かの確認を経てから出す | 確認を急いでもらう | よくある案件は、型どおりなら担当者がその場で出してよいことにする |
| 先方の返事を待ってから準備に入る | 催促の連絡を早める | 返事を待つあいだに、仮の案で準備を進めておく |
| 初回の打ち合わせの前に、相手に資料をそろえてもらう | 資料のひな形を送る | 相手に宿題を出さず、こちらが仮の案を持って確かめにいく |
| 日程は、関係者全員の都合がそろってから決める | 候補日を多めに出す | 決める人だけで先に始め、ほかの人にはあとで共有する |
表の中身は説明のための例です。どれが合うかは会社によって違います。ただ、「急いでもらう」「早めに連絡する」は作業を増やす方向で、「やめる」「変える」は流れそのものを変える方向だ、という違いは共通しています。初回の打ち合わせで宿題を出さない進め方は、キックオフミーティングの準備で詳しく書いています。
KAKUKATAで試してみたい測り方
KAKUKATAでも、この見方を自分たちの仕事に当てはめて、こう測ってみることを考えています。決まった運用ではなく、試みとしての測り方です。
- ご相談をいただいた日、最初にお話しした日、最初の成果物をお渡しした日を、案件ごとに日付だけ残す
- 件数や連絡の回数は数えず、日付と日付のあいだの日数だけを見る
- 一番長いあいだを見つけたら、その工程で「やめられること」を1つだけ考える
日付の記録や日数の計算、工程ごとの並べ替えは、AIが手伝いやすい部分です。一方で、どの工程に手を入れるか、どの慣習をやめるかは、人が決めることです。
重要な注記です。本稿は、日数を測れば必ず成果が出ることを約束するものではありません。例はすべて説明のためのもので、具体的な日数は伏せています。
実務|今日やること:直近の1件で「始まるまでの日数」を書き出す
やることは、一つに絞ります。新しい管理表や仕組みはつくりません。直近の案件を1件だけ選び、相談から最初の成果までの日数を書き出します。
- 案件を1件選ぶ:最近始まった案件か、いま進んでいる案件を1つ選びます。うまくいった案件より、「なんだか時間がかかったな」と感じる案件のほうが向いています。
- 区切りの日付を書き出す:相談や紹介があった日、最初の打ち合わせの日、見積もりや提案を出した日、正式に決まった日、最初の成果を届けた日。分からない日はメールやチャットの履歴から拾います。
- 工程ごとの日数を出す:日付と日付のあいだが何日あったかを並べます。
- 一番長い工程に印をつける:ほかより明らかに長い工程を1つだけ選びます。
- その工程で何を待っていたかを書く:誰の返事、どの確認、どんな決まりごとを待っていたかを書きます。人の名前ではなく、待っていたものを書きます。
- 「やめる・変える」を1つ考える:「もっと急ぐ」ではなく、その待ちそのものをなくす方法を1つ考えます。
- 次の案件で試す:考えた1つを、次の案件で試します。そして、また同じように日数を書き出します。
書き出しのイメージです。以下は例です。
| 工程(例) | 日付 | かかった日数 |
|---|---|---|
| 紹介をいただく | 〇月〇日 | — |
| 最初の打ち合わせ | 〇月〇日 | 〇日 |
| 見積もりを出す | 〇月〇日 | 〇日(ここが一番長い) |
| 正式に決まる | 〇月〇日 | 〇日 |
| 最初の成果を届ける | 〇月〇日 | 〇日 |
よくあるつまずき
- 連絡の回数や打ち合わせの数も一緒に数えてしまい、結局また活動量の表になる
- 一番遅い工程を担当者の責任にしてしまい、次から誰も正直に日付を書かなくなる
- 長い工程を全部直そうとして、どれも中途半端になる
- 「急いでください」と頼むだけで、やめることを決めない
- 一度書き出して満足し、次の案件で測り直さない
会議で決めるときに意見が出にくいと感じる場合は、会議で誰も発言しないもあわせて読んでみてください。止まっている場所は、現場の人のほうが先に気づいていることがよくあります。
よくある質問
活動量の数字は、もう見なくてよいのですか?
見てはいけないわけではありません。連絡件数などは、仕事の量を知る手がかりにはなります。ただ、それを一番の目標にすると、件数を増やすこと自体が目的になりやすくなります。一番上に置く数字は「始まるまでの日数」のような前進の数字にして、活動量はその下で参考に見る、という順番がおすすめです。
ひとり社長でも、日数を測る意味はありますか?
あります。むしろ、ひとりで回していると、どこで止まっているかに自分で気づきにくいものです。自分の返事待ちや、自分が後回しにしている確認が一番長い工程になっていることもあります。日付を並べるだけなので、ひとりでもすぐに試せます。
「始まる」の基準は、何にすればよいですか?
お客さまにとって意味のある最初の区切りにします。たとえば、最初の成果物を受け取った日、サービスの利用が始まった日、最初の打ち合わせの結論が出た日などです。「契約した日」より、お客さまが変化を感じ始める日のほうが、前に進んだかどうかを確かめやすくなります。
一番遅い工程を1つに絞れないときは、どうすればいいですか?
迷ったら、日数が一番長いものを機械的に選びます。どちらが重要かを議論し始めると、そこでまた日にちが流れます。1つ直して日数を測り直せば、次に見るべき場所は自然と見えてきます。
社員に「急げ」と言っているように受け取られませんか?
伝え方しだいです。「誰が遅いか」ではなく「どこで待ちが発生しているか」を一緒に探す、と最初に伝えておくと受け取られ方が変わります。日数が長いのは、多くの場合、人ではなく決まりごとや順番の問題です。やめる決まりを社長が引き受けることで、現場はむしろ楽になります。
まとめ|次に決めること
忙しいのに前に進まないときの論点は、どれだけ動いたかではなく、大事な結果がいつ始まるかです。連絡の件数ではなく、始まるまでの日数を測る。この順番で考えます。
- 直近の案件を1件選び、相談や紹介から最初の成果までの日付を書き出せるか
- 工程ごとの日数を並べ、一番長い工程を1つだけ選べるか
- その工程で「普通はこれくらいかかる」を疑い、少し縮めるのではなく、何をやめるか・変えるかを1つ決められるか
この3つが決まると、「みんな忙しいのに何も始まらない」状態から、「止まっている場所が見えていて、そこに手を入れている」状態へ近づきやすくなります。まずは今日、直近の案件1件で「相談から最初の成果まで何日かかったか」を書き出すところからで十分です。
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