先に結論
新サービスや新メニューを作ったのに売れない。その原因は、商品の出来より、作り終わるまでお客さまが一度も登場しないことかもしれません。作る前に「仮説の二択を立てる」「選ばれた方を本当に作ると先に伝える」「欲しい人の申し込みや返信を集め、少なければ小さくする」の3つの手順を、研修や顧問メニュー、社内ツールの企画にも使える形で整理します。
新しいサービスを作った。新しいメニューも用意した。社内では「これはいける」と盛り上がった。それなのに、ふたを開けてみると申し込みがほとんど来ない——中小企業の経営者の方から、よく聞く悩みです。そこから慌てて広告や告知を増やしても、思うように動かないことがあります。
結論から先に書きます。新サービスが売れないとき、商品の出来や告知の量より先に、作り終わるまで、お客さまが一度も登場していないことが原因になっていることがあります。いちばん手前でできる対策は、作る前に、お客さまに選んでもらうことです。やることは、次の3つです。
- 仮説の二択を立てる
- 選ばれた方を本当に作ると、先に伝える
- 作る前に「欲しい人」の申し込みや返信を集め、少なければ規模を小さくする
かえるちゃんが、完成したばかりの新メニューを眺めて、ぽつりと言うことがあります。「これ、作っているあいだに、誰かお客さんに見せた?」——この問いが、本稿の出発点です。
新サービス・新商品が売れない理由|一般的な説明から
まず一般論です。新しい商品やサービスが売れない理由は、おおまかに次のように説明されることが多いです。
- 誰に向けた商品なのか、ターゲットがはっきりしていない
- 市場や競合の調べが足りない
- ほかとの違いが伝わっていない
- 価格が、価値に見合っていないと受け取られている
- 告知や販売の導線が足りず、そもそも知られていない
どれも、もっともな指摘です。実際に、知られていなければ売れませんし、違いが伝わらなければ比べられて終わります。
ただ、これらの説明の多くは、商品ができあがったあとの話です。「では、作る前に何をしておけばよかったのか」は、見えにくいままになりがちです。
違和感|作り終わるまで、お客さまが一度も登場しない
違和感は、作るまでの流れにあります。
新しい商品が生まれるまでを振り返ると、こんな流れになっていないでしょうか。
- 社内の会議で「最近こういうものが求められている」「同業も始めている」という話が出る
- 「これはきっと売れる」という手応えで、作ることが決まる
- 時間とお金をかけて、商品や資料、ページを作り込む
- 完成してから、はじめてお客さまに案内する
- 売れないと分かってから、販促の担当や営業に「なんとか売ってほしい」と回ってくる
この流れでは、完成するまで、買う人の判断がどこにも入っていません。「きっと売れる」の根拠は、多くの場合、社内の声です。売れなかったあとで販促を頑張っても、すでに作ってしまったものの形は、なかなか変えられません。作る人と売る人が分かれている会社ほど、この状態になりやすいと感じます。
もう1つ、よくある落とし穴があります。お客さまの意見を聞いてはいるのに、「何が欲しいですか」と自由に聞いていることです。自由に聞くと、答えはばらばらに広がり、結局どれを作るかは社内で決めることになります。また、「いいですね」「あったら使いたいです」という返事は、ありがたい反応ですが、申し込みとは別物です。お金や時間を払う段になると、反応は変わることがあります。
| 見分けの軸 | 作ってから売り先を探す | 作る前に選んでもらう |
|---|---|---|
| 何を作るかを決める人 | 社内だけ | 社内が候補を絞り、お客さまが選ぶ |
| お客さまが登場する時点 | 完成したあと | 作り始める前 |
| 「売れそう」の根拠 | 社内の手応え | 選ばれた結果と、申し込みの有無 |
| 外れたときに失うもの | 作り込みにかけた時間とお金 | 二択と案内にかけた手間 |
| 完成したときの状態 | ここから見込み客を探す | すでに待っている人がいる |
この表は、社内で考えることをやめよう、という意味ではありません。考えるのは社内の仕事です。そのうえで、決める前に、お客さまに一度選んでもらうという順番を足す、という話です。
KAKUKATA視点|商品づくりそのものを、お客さまとの最初の接点にする
林英明の現場感覚では、中小企業の新サービスづくりは、作り込みの丁寧さに比べて、作る前にお客さまへ確かめる手間が、驚くほど少ないことが多いです。一度買ってくださった方に「次はどちらが欲しいですか」とまっすぐ聞くだけで、判断がずっと楽になる場面をよく見ます。
ここで、言葉を一度ほどきます。
マーケティングは、広告や宣伝のことだと思われがちですが、ふつうの日本語にすると「お客さまが欲しいものを見つけて、それが届くまでの流れをつくること」です。そう考えると、何を作るかを決める段階も、マーケティングの一部です。作ってから売り方を考えるのではなく、作ることそのものを、お客さまとの最初のやりとりにします。
需要は、「お金や時間を払ってでも欲しい、という人がいること」です。「興味がある」「いいと思う」とは分けて考えます。
仮説は、「たぶん、こうではないか」という、こちらの見立てです。正解でなくてかまいません。確かめるために立てるものです。
この考え方で、冒頭の3つの手順を並べると、次のようになります。
| 手順 | やること | 確かめられること | 抜けると起きやすいこと |
|---|---|---|---|
| ① 仮説の二択を立てる | 作れる候補を2つに絞り、「どちらが欲しいですか」と聞く | お客さまの関心が、どちらに寄っているか | 意見がばらけて、結局社内で決める |
| ② 本当に作ると宣言する | 選ばれた方を作ること、結果をお知らせすることを先に伝える | 選んだ人が、完成を待つ側に回るか | 「参考にします」で終わり、次から答えてもらえない |
| ③ 作る前に申し込みを集める | 選ばれた方について「欲しい人」の申し込みや返信を集める | お金や時間を払ってでも欲しい人が、どれくらいいるか | 関心を需要と取り違えて、作り込みすぎる |
① 仮説の二択を立てる
1つ目は、聞き方です。「何が欲しいですか」と開いて聞くのではなく、こちらで候補を2つに絞ってから、「どちらが欲しいですか」と聞きます。
お客さまの数が多くない会社ほど、この形が向いています。自由に答えてもらうには、相手に考える手間がかかります。二択なら、一瞬で答えられます。企画をお客さまに丸ごと任せるのではなく、考えるのはこちら、選ぶのはお客さまという役割分担です。
二択をつくるときの条件は、3つです。
- どちらも、本当に作れるものにする:選ばれても作れない候補は、入れません
- 違いを1つに絞る:対象者の違い、形式の違いなど、比べる軸を1つにします
- 答えるのに迷わない言葉にする:社内の呼び名や専門用語は使わず、お客さまの言葉で書きます
たとえば、次のような形です。以下は、考え方を説明するための例です。
- 研修の場合:「次に開くなら、どちらに参加したいですか。A 経営者向けに、考え方を短時間で整理する回/B 現場の担当者向けに、手を動かして練習する回」
- 顧問・相談メニューの場合:「続けて相談できる形をつくるなら、どちらが助かりますか。A 毎月決まった日に、まとめて相談できる形/B 困ったときに、その都度短く相談できる形」
- 社内ツールの場合:「先に楽にしたいのは、どちらですか。A 日報の下書き/B 見積書の下書き」
② 選ばれた方を本当に作ると、先に伝える
2つ目は、聞く前の約束です。二択を出すときに、「選ばれた方を、実際に作ります」と、あらかじめ伝えます。
ふつうのアンケートは、「ご意見ありがとうございました。今後の参考にします」で終わることが多いです。答えた側からすると、自分の答えがどうなったのか分かりません。これに対して、選ばれた方を本当に作ると決めておくと、お客さまの立場が変わります。ただ買う人から、何を作るかを一緒に決めた人になります。自分が選んだものができあがれば、気にかけて、完成を待ってくださる方も出てきます。
そのぶん、守ることもあります。
- 作るつもりのない候補は、出さない:どちらが選ばれても作れる二択にします
- 結果を必ずお知らせする:どちらが選ばれたか、次に何をするかを返します
- 作らない場合の条件も、先に書いておく:③の申し込みが少なければ、規模を小さくする、または見送ることがある、と最初に伝えます
③ 作る前に「欲しい人」の申し込み・返信を集め、少なければ規模を小さくする
3つ目が、いちばん大切な手順です。選ばれたことは、関心の表れです。申し込みは、需要の表れです。この2つは、分けて確かめます。
選ばれた方について、作り込む前に「欲しい人」に手を挙げてもらいます。形は、会社や商品によって変わります。
- 選んでくださった方に、先に申し込みを受け付ける
- 「できあがったら知らせてほしい方は、返信してください」と案内する
- 小さな試験版を用意して、参加者を募る
- 社内ツールなら、「最初に使ってみる人」を手挙げで募る
そのうえで、どれくらい集まったら作るか、少なかったらどうするかを、集める前に社内で決めておきます。基準の数字は、商品の性質や、作るのにかかる手間によって違うので、ここでは決めません。大切なのは、結果を見てから基準を動かさないことです。
申し込みや返信が少なかったときの選択肢は、作る・作らないの2つだけではありません。
- 規模を小さくする:人数や回数、機能を絞った形で、まず1回やってみる
- 形を変える:選ばれなかった方や、返信の中に出てきた声をもとに、二択を立て直す
- 見送る:今回は作らず、作り込みにかかるはずだった時間とお金を残す
見送ることは、失敗ではありません。作る前に分かったという成果です。そして、②で「少なければ見送ることがある」と先に伝えてあれば、お客さまとの約束を破ることにもなりません。
流れをまとめると、選んでもらう → 欲しい人に手を挙げてもらう → 作るの2段階です。いきなり大きく作るのではなく、最初は小さく始めて、実際に申し込みが入るのを見てから広げます。新規事業の企画書の段階で「何を検証するか」を決める考え方は、新規事業の企画書の書き方|中小企業・一人社長がAIを使って事業案を形にする方法にも書いています。本稿は、その検証を「お客さまに選んでもらう」形で行う手順に絞っています。
AIとの関係でいえば、二択の候補を出す、お客さまに伝わる言い回しに直す、集まった返信をまとめる、といった作業は、AIに手伝ってもらえます。一方で、どの候補なら本当に作れるか、どれくらい集まったら作るか、見送るかどうかは、人が決めます。
重要な注記です。本稿は、特定の会社や商品の事例を紹介する記事ではありません。例はすべて、説明のためのものです。売上や申し込み数を約束するものでもありません。また、先に代金をいただく形で申し込みを受ける場合は、作らなかったときの返金の扱いや、提供の時期・条件を、案内の時点ではっきり書いておいてください。
実務|次に作ろうとしているものを1つ選び、作る前に3つを試す
やることは、一つに絞ります。いま社内で「作ろう」と話が出ている新サービス・新メニュー・社内ツールを1つ選び、作り込む前に、3つの手順を小さく試します。新しい調査の仕組みや、大きなアンケートはいりません。
- 作ろうとしているものを1つ選ぶ:いま企画中のもの、または「そのうち作りたい」と話しているものを1つ選びます。
- 候補を2つに絞る:作り方の違いや対象者の違いから、どちらも本当に作れる候補を2つにします。違いは1つに絞ります。
- 聞く相手を決める:一度買ってくださった方、いま取引のある方、社内ツールなら実際に使う社員など、すでに関係のある相手に絞ります。
- 基準を先に決める:どれくらい申し込みや返信が集まったら作るか、少なかったら小さくするか見送るかを、聞く前にメモしておきます。
- 約束とあわせて聞く:「選ばれた方を作ります」「結果はお知らせします」「申し込みが少なければ、小さく始めるか見送ることがあります」と添えて、二択を出します。
- 結果を返し、申し込みを集める:選ばれた方をお知らせし、そのまま「欲しい方」の申し込みや返信を受け付けます。
- 基準どおりに決める:集まった数を、4で決めた基準と照らして、作る・小さく作る・見送るを決めます。
研修や顧問メニュー、社内ツールに当てはめると、次のようになります。この表の内容は、すべて例です。
| 企画するもの | 二択の例 | 聞く相手 | 「欲しい人」の確かめ方 |
|---|---|---|---|
| 研修・講座 | 経営者向けの短時間の講座/担当者向けの実習 | 過去の参加者、取引先 | 選ばれた方の初回に、先に申し込みを受け付ける |
| 顧問・相談メニュー | 毎月まとめて相談/都度短く相談 | いま相談をいただいている方 | 試しに使ってみたい方を募り、少人数で始める |
| 社内ツール | 日報の下書き/見積書の下書き | 実際に使う社員 | 「最初に使ってみる人」を手挙げで募る |
社内ツールの場合、お客さまにあたるのは、使う社員です。作る側が「便利なはず」と思って作り込んでも、使う人が選んでいなければ、使われずに終わることがあります。社内でも、同じ順番が効きます。
よくあるつまずき
- 二択のどちらかが、実は作るのが難しく、選ばれても作れない
- 選択肢の違いが多すぎて、何を比べてもらっているのか分からない
- 選ばれたのに作らない、または結果をお知らせしない(次から答えてもらえなくなります)
- 「いいですね」の数を見て、申し込みを確かめないまま作り込む
- 申し込みが少なかったのに、基準を後から下げて作ってしまう
- 一度に大きく作ろうとして、小さく試す段階を飛ばす
すでに作った商品の見せ方を見直す場合は、足し算ではなく、お客さまの手間を引き受ける設計に組み替える考え方を高単価商品の作り方|特典を足す前に、お客さまがやらなくてよいことを増やすにまとめています。
よくある質問
お客さまの数が少なくても、選んでもらう意味はありますか?
あります。むしろ、お客さまが少ない会社ほど、自由に意見を集めるのは難しいので、こちらで候補を絞った二択のほうが答えてもらいやすくなります。数が少なくても、一度買ってくださった方の選択は、社内の手応えより確かな手がかりになります。
二択のどちらにも、あまり反応がなかったらどうすればよいですか?
それも、作る前に分かった大切な結果です。候補そのものが、お客さまの困りごとからずれている可能性があります。返信の中に出てきた声や、これまでの相談内容をもとに、二択を立て直してみてください。
申し込みが少なかったら、その企画は失敗ですか?
失敗ではありません。作り込む前に分かったので、時間とお金を守れたことになります。規模を小さくして試す、形を変える、今回は見送る、のどれかを選びます。見送ることがあると最初に伝えておけば、お客さまとの約束を破ることにもなりません。
アイデアを先に出すと、同業にまねされませんか?
その心配がある場合は、すでに関係のあるお客さまや、社内の利用者に限って聞く形にします。広く公開して聞く必要はありません。完成前から待っている人がいることは、まねされにくい強みにもなります。
すでに作ってしまった商品は、どうすればよいですか?
作り直す前に、いま売れていない理由を整理するのが先です。そのうえで、次の改良や、次に作るものから、二択で選んでもらう順番を取り入れてください。今ある商品についても、「次に足すならどちらがよいですか」と聞くところから始められます。
まとめ|次に決めること
新サービスが売れないときの論点は、作り終わってからの売り方より先に、作る前に、お客さまに選んでもらったかどうかです。
- いま企画している新サービス・新メニュー・社内ツールを1つ選び、どちらも本当に作れる二択に絞れるか
- 「選ばれた方を作る」「少なければ小さくする、または見送る」と、聞く前に伝えられるか
- どれくらい申し込みや返信が集まったら作るか、その基準を先に決めておけるか
この3つが言葉になると、「作ったのに売れない」という状態を、作る前の段階で避けやすくなります。大きな調査はいりません。まずは、いま社内で話が出ている企画を1つ選び、候補を2つに絞って書き出すところからで十分です。
関連記事もあわせてご覧ください。作る前に検証することを企画書に落とす方法は新規事業の企画書の書き方、できあがった商品の価値を、お客さまの手間を引き受ける形で伝える考え方は高単価商品の作り方にまとめています。
