先に結論
API非対応の弥生会計や申告ソフトでもAI自動化は可能。税理士の53.6%が60歳以上という業界データと、税理士事務所の法人税申告フローを半自動化した実例から、レガシー業務ソフトをAIにつなぐ3つの型を解説します。
「うちのソフトはAPIがないから、AI自動化は無理ですよね」
AI顧問の現場で、もっともよく聞く諦めの言葉です。結論から言うと、APIがなくても自動化はできます。
この記事では、私がAI顧問として週1回伴走している税理士事務所の「法人税申告フロー自動化」を例に、レガシー業務ソフトをAIにつなぐ具体的な方法を紹介します。前半は業界データで「なぜこの問題が放置されているのか」を整理し、後半は実際のプロジェクトで使った3つの型を解説します。
データで見る「AI×会計」の偏り
まず、数字で現状を確認します。
税理士の53.6%が60歳以上
日本税理士会連合会の「第7回税理士実態調査」(令和6年)によると、税理士の53.6%が60歳以上です。年代別では60歳代が25.7%、70歳代が22.0%と続き、20〜30歳代は合計でわずか6.6%。半数以上が、キャリアの大半を紙とインストール型ソフトで積み上げてきた世代です。
会計ソフトは今も「弥生」が最大勢力
MM総研の調査(2025年3月末)では、個人事業主のクラウド会計ソフト利用率は38.3%。つまり6割はまだクラウド会計ですらありません。そしてクラウド会計の中でも、シェアは弥生55.4%・freee 24.0%・マネーフォワード14.3%と、弥生が10年連続トップです。
一方、AI連携の対応状況は真逆です。
| 項目 | freee | マネーフォワード | 弥生(デスクトップ版) | 申告ソフト(魔法陣・達人等) |
|---|---|---|---|---|
| 公開API | あり | あり | なし(※) | なし |
| MCP対応(AIエージェント連携) | 2026年3月にOSS公開・約330本のAPIをツール化 | 2026年3月に公式リモートMCPを全プラン提供 | なし | なし・対応の兆しもなし |
| 現場での利用層 | クラウド前提の比較的若い事業者 | 同左 | 最大シェア。ベテラン税理士の主力 | ほぼすべての税理士事務所が何かしら利用 |
※弥生のクラウドサービスには銀行明細の取込(スマート取引取込)等はありますが、デスクトップ版の会計データを外部のAIから直接読み書きできる公開APIはありません。
つまり「話題の外側」に業界の大多数がいる
AI×会計の記事やセミナーは、MCP対応を済ませたfreee・マネーフォワードの話題に集中しています。しかし上の数字を重ねると、最大シェアの会計ソフトと、申告書を作る実務の中心である申告ソフトが、どちらもAI連携の空白地帯だと分かります。
しかも国税庁のe-Tax利用率を見ると、法人税申告の電子申告率は89.1%(令和6年度)。「提出」は9割デジタル化されたのに、その手前の「帳簿から申告書への転記」は今も手作業かRPA頼み——これが2026年の現在地です。
Claude Codeで弥生会計にデータを取り込む試みは個人ブログでも出始めていますが、そのほとんどは会計データの入力まで。申告ソフトまで含めた「申告フロー全体」をAIでつなぎ直した公開事例は、まだほとんどありません。逆に言えば、ここを突破できれば事務所の生産性は一気に変わります。
実例:法人税申告フローはこうなっていた
伴走先の税理士事務所では、法人税申告書の作成がこういうフローでした。実際に画面共有で一つひとつ見せてもらった内容です。
- 「下ごしらえExcel」への手入力。前期の納税一覧(PDF)を見ながら、期首未納法人税額などを転記する。ここが曲者で、たとえば法人税と地方法人税は合算して入れる(地方法人税が後から創設されたため、様式が分かれていない)、都道府県民税は法人税割と均等割を合計する、東京23区内の会社は市町村民税がそもそもない——といった税務の前提知識がないと、どの数字をどこに足すのかすら分からない
- 会計ソフトからの転記。弥生会計の損益計算書で全期間を選択し、当期純利益を転記。売掛金残高・貸倒引当金・資本金は貸借対照表から拾う
- RPAによる申告ソフト入力。完成したExcelを所定フォルダに置くと、RPA(Power Automate)が申告ソフトを開き、対象会社を選んで申告書の該当欄に数字を順番に自動入力していく
一見、RPAで自動化済みに見えます。しかし実際には課題だらけでした。
- 申告ソフトの年度版が変わるとRPAのパス設定がズレて動かなくなる
- 画面共有中に実演してもらったところ、画面のボタン配置が少し変わっていただけでRPAがその場で停止した
- フローを作れる人が事務所に一人しかおらず、止まるたびに外部へ修正依頼
- 23区内用・区外用など会社パターンごとの複製が大変
RPAの世界ではこれを「野良ロボット」「属人化」と呼びます。RPAは「作った人しか直せない自動化」になりがち——これがレガシー業務ソフト自動化の典型的な壁です。
AIでつなぎ直す3つの型
この事務所では、AI(Claude)を使ってフローを作り直しています。ポイントは3つの「型」です。
型①:RPAのフロー定義をAIに読ませて移植する
Power AutomateのフローはコピーしてAIに読ませることができます。「このRPAと同じ動きをするPythonプログラムにして」と依頼すれば、まず忠実な移植版ができる。
移植すると何が変わるか。
- 画面変更でエラーが出ても、エラー内容をAIに渡せばその場で修正できる
- 定期実行や、23区内用・区外用といったパターン複製がコピーで済む
- 「作った人しか直せない」状態から卒業できる
このとき議論になったのが「いきなり理想形を作り直すべきか」でした。結論は、まず忠実に移植してから改善する。AIに「ゼロから作るならどう設計する?」と聞くと再構築案も出してくれますが、動いている業務を止めないためには、忠実移植→比較検討の順が安全です。
ひとつ注意点もあります。RPAのフロー定義には「このボタンをクリック」としか書かれておらず、ボタンの画像や位置情報が落ちていることがある。定義ファイルだけで完全再現できると思い込まず、実際に動かして止まる箇所を確認しながら移植するのが現実的です。
型②:RPAが不要な部分はCSVインポートに置き換える
勘定科目内訳書は、申告ソフトのCSVインポート機能が使えることが分かりました。画面操作の自動化(RPA)よりも、データ変換の自動化(AI) のほうがずっと壊れにくい。
ただし単純変換はできません。弥生会計の勘定科目と内訳書のフィールドは1対1で対応しないからです。実例を挙げると:
- 売掛金の内訳書には未収入金も書く必要がある(勘定科目上は別物)
- 会社によって補助科目の粒度がバラバラ(普通預金に銀行別の明細がある会社、ない会社)
- 前払費用や有価証券の区分も、会計側と内訳書側で切り方が違う
そこで、会社ごとの「マッピング表」を作り、AIがそれを参照してCSVを自動生成する設計にしました。フローはこうです。
- 弥生会計から補助残高一覧をExcelエクスポート(APIがなくても、エクスポートは必ずできる)
- AIがマッピング表を参照してインポート用CSVに変換
- 申告ソフトにCSVインポート(最後の取込操作だけ簡易RPA)
「エクスポート → AI変換 → インポート」は、APIのないソフト同士をつなぐ万能パターンです。弥生会計に限らず、販売管理・給与・業界特化ソフトなど、Excel/CSVを吐けるソフトなら何にでも応用できます。
型③:判断が要る部分は人に残す
受取利息と源泉税の分離のように、データだけでは判断しきれない項目もありました。普通預金利息だけの会社なら機械的に拾えますが、貸付金利息が混ざる会社では人の判断が要る。ここは無理に自動化せず、「暫定は空欄、人が最後に埋める」と割り切りました。
100%の自動化を狙うと設計が複雑になり、壊れやすくなります。8割をAIに任せ、判断の2割を人に残すのが、実務で回る自動化です。
進め方:現場の画面を一緒に見ることから
このプロジェクトで一番時間を使ったのは、プログラミングではなく「現行フローの把握」でした。
- どのフォルダに何のファイルがあるか
- RPAがどの画面のどのボタンを押しているか
- なぜその数字をそこに入れるのか(税務上の理由)
これは資料のやり取りだけでは絶対に分かりません。画面共有しながら、実際にRPAを動かして止まるところを見て、初めて設計ができます。
面白かったのは、伴走しているうちにクライアント側のAIの使い方が変わっていったことです。最初は「信用できなくて、つい細かく指示を出していた」のが、やりたいことをまとめて伝えて、先にAIに計画を立てさせてから任せるスタイルに変わり、「だいぶ時間の無駄だった」と笑っていました。音声入力で指示を出す使い方も、その場で試して定着しています。
AI自動化の成否は、コードの腕前より業務の解像度と、任せ方の学習で決まります。
まとめ:APIがないことは、諦める理由にならない
- 税理士の53.6%が60歳以上。最大シェアの弥生会計と申告ソフトはAI連携の空白地帯で、業界の大多数がAIの話題の外側にいる
- APIがなくても「エクスポート → AI変換 → インポート」でつなげる
- 既存RPAはAIに読ませて移植すれば、直せる自動化に変わる
- 判断が要る2割は人に残すと、壊れない仕組みになる
弥生会計と申告ソフトのように「みんなが使っているのに、AI連携から取り残されているソフト」は、どの業界にもあります。むしろそこにこそ、生産性を大きく変える余地が残っています。
よくある質問
Q. 弥生会計にはAPIがないのに、なぜ自動化できるのですか?
A. Excel/CSVエクスポート機能は使えるためです。エクスポートしたデータをAIがマッピング表を参照しながら変換し、相手側ソフトのインポート機能や簡易RPAで取り込む構成なら、API連携なしで自動化が成立します。
Q. すでにRPAがあるなら、そのままでよいのでは?
A. 動いている間は問題ありませんが、ソフトの年度版更新や画面変更で止まったとき「直せる人がいない」のが最大のリスクです。実際、伴走先では画面のわずかな変化でRPAがその場で停止しました。AIでPythonに移植しておくと、エラー内容を渡すだけで修正でき、保守を内製化できます。
Q. freeeやマネーフォワードに乗り換えたほうが早くないですか?
A. ケースによりますが、税理士事務所の場合は顧問先ごとの過去データ・業務フロー・申告ソフトとの接続まで含めて移行コストが非常に大きく、現実的でないことが多いです。今の道具のまま「出す→変換→入れる」でつなぐほうが、現場の30年を壊さずに作業時間だけを変えられます。
Q. どこから手をつければよいですか?
A. 現行フローの棚卸しからです。「誰が・どのソフトで・何を・どこへ転記しているか」を書き出すと、CSVで置き換えられる部分とRPAが必要な部分、人に残すべき判断が見えてきます。
参考データ
- 日本税理士会連合会「第7回税理士実態調査」(令和6年):60歳以上が53.6%
- MM総研「クラウド会計ソフトの利用状況調査」(2025年3月末):個人事業主のクラウド会計利用率38.3%、シェアは弥生55.4%・freee 24.0%・マネーフォワード14.3%
- freee株式会社プレスリリース(2026年3月):freee-mcpをOSS公開、約330本のAPIをMCPツール化
- マネーフォワード:クラウド会計の公式リモートMCPサーバーを全プラン提供開始(2026年3月・β版)
- 国税庁:法人税申告のe-Tax利用率89.1%(令和6年度)
KAKUKATAでは、月額のAI顧問として「APIのないソフトだらけの現場」の自動化を、週次の伴走で進めています。自社のフローで何ができそうか知りたい方は、お気軽にご相談ください。
