先に結論
集客、単価、教育。毎日考えて施策も回しているのに、ライバルとの差がつかない。そんなときは、いまのやり方を良くする「改善」から一度離れて、お客さまがあなたの会社から買う理由そのものを作り直してみます。業界の当たり前をひっくり返す、前提を一つ引く、別の業界から型を借りる、お客さまの「仕方ない」を探す、わざと厳しい条件をつける。この5つの問いで案を出し、選んで小さく確かめるまでの手順を、少人数の会社向けに整理します。
集客を増やす方法を考え、客単価を上げる工夫をし、スタッフの教え方も見直している。毎日きちんと考えていますし、施策も回しています。それなのに、お客さまから見ると「ほかの会社と何が違うのか」がはっきりしない。少人数の会社の社長やマーケティング担当の方から、よく聞く悩みです。
結論から先に書きます。頑張っても差がつかないとき、足りないのは考える量ではなく、考える方向であることが多いと考えています。いまのやり方を良くする「改善」は大切ですが、ライバルも同じ方向で考えています。差をつけたいときは、商品の良いところを足していく前に、お客さまが買う理由そのものを作り直すほうに目を向けます。やることは、次の3つです。
- いまの考えごとが「改善」に偏っていないかを見る(ライバルと同じ問いを解いていないか)
- 5つの問いで、前提を疑う案を出す(中でも、お客さまの「仕方ない」を一つ疑う)
- 案を絞り、お客さまに小さく確かめる(面白い案と、買ってもらえる案は別もの)
かえるちゃんが、施策の一覧を見て、ぽつりと聞くことがあります。「これ、となりの会社も同じこと書いてない?」——本稿は、この問いから始めます。
差別化の考え方|一般的に言われていること
まず一般論です。「ライバルと差がつかない」「差別化ができない」という悩みには、よく次のような対策が挙がります。
- 自社の強みを書き出す
- ライバルと比べて、勝っている点を打ち出す
- 品質や対応の丁寧さを磨く
- 価格や特典で選ばれやすくする
- 狙うお客さまを絞り込む
どれも大切です。強みを知らずに打ち出し方を考えることはできませんし、品質を磨くことはどんな会社にも必要です。
ただ、ここで一つ引っかかるのは、これらの多くがいまの商売の形を前提にしたまま、その中で良くしていく考え方だという点です。同じ形の中で良くしていけば、ライバルも同じ方向で良くしてきます。お客さまから見ると、「どこも丁寧で、どこも品質にこだわっている」という状態になりやすいのです。
違和感|改善だけでは、同じ土俵で少しずつ良くなるだけ
考え方には、大きく2つの向きがあります。
- 垂直思考:いまの前提の中で、深く筋道を立てて考えること。たとえば「問い合わせを増やすには」「成約する割合を上げるには」と、決まった形の中で答えを掘り下げます。ここでは「改善の考え方」と呼びます。
- 水平思考:いまの前提そのものを疑って、別の方向から答えを探すこと。たとえば「そもそも、この形で売る必要はあるのか」と、問いの立て方から変えます。ここでは「前提を疑う考え方」と呼びます。英語でラテラルシンキングと呼ばれることもあります。
どちらが正しいという話ではありません。改善の考え方は、仕事の精度や効率を上げるのに欠かせません。ただ、社長が毎日考えていることを書き出してみると、ほとんどが改善の側に入っていることがよくあります。そして改善は、ライバルも同じように考えています。だから、頑張るほど同じ土俵で少しずつ良くなり、差は広がりにくいのです。
| 見方 | 改善の考え方(垂直思考) | 前提を疑う考え方(水平思考) |
|---|---|---|
| 出発点 | いまの商売の形はそのまま | いまの商売の形そのものを疑う |
| よく出る問い | どうすればもっと良くなるか | そもそも、これは必要か |
| 得意なこと | 精度を上げる、無駄を減らす | ほかにない選ばれ方をつくる |
| 起きやすいこと | ライバルと似てくる | 案が突飛すぎて使えないことも多い |
| 向いている場面 | 仕組みが回り始めたあと | 差がつかない、伸び悩んでいるとき |
もう一つ、「コンセプト」という言葉にも引っかかりがあります。コンセプトは、ここでは「この会社から買う理由」を一言で言ったものと考えます。「丁寧な対応」「品質へのこだわり」は、会社の紹介ではあっても、買う理由にはなりにくい言葉です。ライバルも同じことを書いているからです。商品の特徴を足していくのではなく、お客さまがなぜ買うのか、その理由を組み替える。そこまで行って、はじめてコンセプトになると考えています。
KAKUKATA視点|体験のあとに、前提を一つ疑う
前回の記事ライバルの商品をお客さまとして最後まで体験するでは、売れる型を作る前に、ライバルの現場をお客さまとして通り、「何の悩みにお金が払われているか」「裏にある不満は何か」を書き出す話をしました。本稿はその続きです。
体験と書き出しで見えるのは、いまの業界の形です。そのまま写せば、きちんとした型にはなります。でも、そのままでは、写した元のライバルと同じ土俵に立つことになります。そこで林英明は、写す前に一度、その形の前提を疑う時間をはさむようにしています。体験で集めた材料を、ひっくり返したり、引いたり、別の業界と組み合わせたりしてから型に写す。この順番にすると、「体験する → 前提を疑う → 小さく確かめる → 型にする」という一連の流れになります。
ここからは、林英明がいま試している手順を書きます。決まった正解としてではなく、試しながら整えている途中の考え方です。
1. 5つの問いで、前提を疑う案を出す
「自由にアイデアを出してください」と言われても、たいていは普通の案しか出ません。前提を疑うには、問いの形を先に決めておくほうが楽です。次の5つを使っています。表の例は、説明のための架空のものです。
| 問い | やること | 例(架空) |
|---|---|---|
| 当たり前をひっくり返す | 業界で「普通はこうする」を書き、逆にしたらどうなるかを考える | 「印刷会社は頼まれたものを刷る」→「刷る前に、刷らなくてよいものを一緒に減らす」 |
| 前提を一つ引く | 当然あるものを一つ外しても成り立つかを考える | 「制作会社は毎月打ち合わせをする」→ 打ち合わせを外し、短い報告と質問の窓口だけにする |
| 別の業界から型を借りる | うまくいっている別の業界の仕組みや体験を、自社に置き換える | 旅行会社の「旅のしおり」を借りて、契約後に進み方が一目で分かる冊子を渡す |
| お客さまの「仕方ない」を探す | 不満として口にも出ない、あきらめている前提を探す | 「担当者が替わるたびに、一から説明し直すのは仕方ない」→ 説明し直さなくてよい形にする |
| わざと厳しい条件をつける | ふだんなら考えない条件を置き、いまの延長では答えられない問いにする | 「初回の打ち合わせなしで、依頼を受けるには」 |
出すときの約束は一つだけです。最初から正解を出そうとしないこと。「うちの業界では無理」と言った瞬間に、考えは止まります。できるかどうかは、あとで確かめれば十分です。
2. 中でも、お客さまの「仕方ない」を一つ疑う
5つの中で、林英明がいちばん手ごたえを感じているのは、お客さまの「仕方ない」を探す問いです。
前回の記事では、買う理由の裏にある不満を書き出しました。不満は、お客さまが口に出してくれるものです。だから、ライバルも聞いていますし、たいてい誰かがすでに手を打っています。
その一段奥にあるのが、あきらめです。お客さまが「こういうものだから仕方ない」と受け入れてしまい、もう不満としても口にしないこと。たとえば次のようなものです。
- 専門家に頼むと、届いた報告書を読み解くのは自分の仕事になる
- 担当者が替わると、これまでの経緯を一から説明し直すことになる
- 頼んだあと、いまどこまで進んでいるのかは、こちらから聞かないと分からない
本人はあきらめているので、アンケートで「ご不満はありますか」と聞いても、ほとんど出てきません。でも、そこが片づくと、お客さまにとっては「ほかでは当たり前だったことが、ここでは起きない」という、はっきりした買う理由になります。値段や品質の比べ合いとは、別の軸で選ばれるようになります。
かえるちゃんの言い方を借りると、「不満は聞けば出てくる。仕方ないは、聞き方を変えないと出てこない」ということです。聞くときは「ご不満は」ではなく、「これは仕方ないと思っていることはありますか」「頼むとき、最初からあきらめていることはありますか」と聞いてみます。
お客さまの手間や待ち時間を減らして価値を上げる考え方は、値下げの前にお客さまの「面倒」と「待ち時間」を減らすでも書いています。「仕方ない」を一つ疑うと、そこで書いた手間の正体が見つけやすくなります。
3. 面白い案と、買ってもらえる案は別もの
案がたくさん出ると、それだけで前に進んだ気になります。でも、面白い案がそのまま売れるわけではありません。出した案は、次の問いで絞ります。
- 欲しい人がいるか:お金を払ってでも、それを片づけたい人が本当にいるか
- ほかと違うか:ライバルがすでにやっていないか、言い方を変えただけになっていないか
- 一言で伝わるか:長い説明がないと分からないなら、まだ買う理由になっていない
- 利益が残るか:手間ばかり増えて、続けるほど苦しくならないか
- 自社でできるか:いまの人数と道具で、無理なく始められるか
この中で、少人数の会社が見落としやすいのが一言で伝わるかです。説明を重ねないと伝わらない案は、お客さまの頭にも、紹介してくれる人の口にも残りません。社内で「つまり、どういうこと?」と聞かれて一言で返せない案は、いったん脇に置きます。
4. 二択の外に、もう一つの選択肢を書く
前提を疑う考え方は、新しい商品を考えるときだけのものではありません。ふだんの判断にも使えます。
たとえば、忙しい時期に依頼を受けきれないとき、多くの場合は「断るか、無理して受けるか」の二択で悩みます。でも、本当に二択でしょうか。受ける順番を変える、お客さまの準備を先に済ませてもらう、小さな版を先に渡して本番を後ろにずらす、そもそもその作業をなくす。考え方を変えると、第三の選択肢が出てきます。
目の前の二択から選ぶだけでなく、選択肢そのものを作る。経営者に求められるのは、この習慣だと考えています。
実務|今週やること:「仕方ない」を書き出し、一つだけ疑う
新しい道具は使いません。紙1枚か、メモ1つで十分です。毎日少しずつでも、1回にまとめてでもかまいません。
- いま考えていることを書き出し、「改善」か「前提を疑う」かに分ける:最近考えた施策を並べ、改善の側に偏っていないかを確かめます。
- 業界の当たり前を書き出す:「普通はこうする」「お客さまはこうするもの」を、思いつくだけ書きます。前回の体験メモがあれば、そこから拾います。
- 5つの問いを当てる:書いた当たり前に、ひっくり返す・引く・借りる・厳しい条件をつける、を順に当てます。できるかどうかは考えません。
- お客さまの「仕方ない」を書く:お客さまがあきらめていること、我慢していることを書きます。思いつかなければ、近いお客さまに「これは仕方ないと思っていることはありますか」と聞いてみます。
- 一つだけ選び、「もしそれが仕方なくなかったら」と一文で書く:全部ではなく、一つに絞ります。
- 買う理由を一言で書き直す:その「仕方ない」が片づいたら、お客さまはなぜ自社を選ぶのかを、一言で書きます。
- 欲しい人がいるかを、小さく確かめる:何人かのお客さまに案を見せ、「欲しいか」だけでなく、いまどう片づけているか、申し込みを考えるかまで聞きます。
書き出しのイメージです。以下は例です。
| 項目(例) | 書く内容(例) |
|---|---|
| いまの考えごと | 問い合わせを増やす、提案書を見やすくする(どちらも改善) |
| 業界の当たり前 | 依頼のあと、進み具合はお客さまから聞かないと分からない |
| お客さまの「仕方ない」 | 頼んだら、あとは待つしかない |
| もし仕方なくなかったら | 聞かれる前に、いまどこまで進み、次に何が来るかが分かる |
| 買う理由(一言) | 頼んだあと、待たされている気がしない |
| 確かめ方 | 近いお客さまに案を見せ、いまの困りごとと、申し込みを考えるかを聞く |
AIは、業界の当たり前を幅広く書き出すときや、5つの問いを当てた案をたくさん出すときに手伝ってもらいやすい部分です。自分では当たり前すぎて気づかない前提も、AIに「この業界で普通とされていることを挙げて」と頼むと出てきます。一方で、どの「仕方ない」を疑うか、どの案を買う理由にするかは、お客さまを知っている人が決めることです。
小さく確かめる手順は、作る前にお客さまに選んでもらうで詳しく書いています。
よくあるつまずき
- 案を出す途中で「それは無理」と言ってしまい、改善の案に戻ってしまう
- 「仕方ない」を聞くつもりが、「ご不満はありますか」と聞いてしまい、いつもの不満しか出てこない
- 面白い案が出たことに満足して、欲しい人がいるかを確かめないまま進める
- 一言で言えない案を、説明を足して押し通そうとする
- 前提を疑うことに夢中になり、いまの仕事の改善まで止めてしまう
よくある質問
改善はやめたほうがよいのですか?
やめる必要はありません。改善は、仕事の精度や効率を上げるのに欠かせません。ただ、改善だけを続けると、ライバルと同じ方向で少しずつ良くなるだけになりやすい、という話です。改善を続けながら、ときどき前提を疑う時間をはさむ、という組み合わせで考えています。
発想が苦手で、変わった案が出てきません。
才能より、問いの形の問題であることが多いと考えています。「自由に考える」と普通の案しか出ませんが、「逆にしたら」「一つ外したら」「別の業界なら」「仕方ないことは」「この条件なら」と問いの形を決めると、案は出やすくなります。最初はおかしな案ばかりでかまいません。出す段階と選ぶ段階を分けるのがこつです。
「不満」と「仕方ない」は、何が違うのですか?
不満は、お客さまが口に出して言えるものです。仕方ないは、あきらめて受け入れてしまい、もう口に出さないものです。不満はライバルも聞いて手を打っていることが多いのに対して、仕方ないは誰も手をつけていないことがあります。そのぶん、片づいたときに、ほかとは違う買う理由になりやすいのです。
前提を疑った案は、どうやって確かめればよいですか?
いきなり作り込まず、何人かのお客さまに案を見せて聞いてみます。「欲しいですか」だけだと、気をつかって「いいですね」と言ってもらえることが多いので、いまどう片づけているか、申し込みを考えるかまで聞きます。可能なら、小さく申し込める形を用意して、本当に手が挙がるかを見ます。
ライバルの体験と、前提を疑うことは、どちらを先にやるのですか?
体験が先です。ライバルの現場をお客さまとして通ると、業界の当たり前やお客さまの不満が、具体的な材料として手元に集まります。その材料に5つの問いを当てると、空想ではなく、現場に根ざした案が出やすくなります。体験の進め方はライバルの商品をお客さまとして最後まで体験するにまとめています。
まとめ|次に決めること
頑張っても差がつかないときの論点は、考える量ではなく、考える方向です。改善の考え方だけでは、ライバルと同じ土俵で少しずつ良くなるだけになりやすい。だから、商品の特徴を足す前に、お客さまが買う理由そのものを作り直します。5つの問いで前提を疑い、中でもお客さまの「仕方ない」を一つ疑う。案を絞り、小さく確かめてから型にする。この順番で考えます。
- いま考えている施策のうち、前提を疑う側に入るものが一つでもあるか
- お客さまが「仕方ない」とあきらめていることを、一つ書けるか
- それが片づいたときの買う理由を、一言で言えるか
この3つが決まると、「毎日考えているのに、ほかと同じに見える」状態から、「ほかでは当たり前のことが、ここでは起きない」と言える状態へ近づきやすくなります。まずは今日、お客さまの「仕方ない」を一つ、メモに書くところからで十分です。
関連記事もあわせてご覧ください。前提を疑う材料を現場で集める方法はライバルの商品をお客さまとして最後まで体験する、案を作り込む前に確かめる手順は作る前にお客さまに選んでもらう、お客さまの手間や待ち時間から価値を作り直す考え方は値下げの前にお客さまの「面倒」と「待ち時間」を減らす、努力の前に目標と時間の置き場所を決める考え方は頑張っているのに会社が伸びないにまとめています。
