先に結論
頑張っているのに会社が伸びないとき、足りないのは努力の量ではなく、努力を始める前の設計かもしれません。売上の目標を「誰が払い、誰が喜ぶか」から立て直し、数字に分解して「このままでは届かない場所」を探し、一度やれば何度も働く仕事に時間を寄せる。一人社長・少人数の会社向けに、目標設定と計画の立て方を3つの順番で整理します。
朝早くから動き、休みの日もメールを返し、新しい施策にも手を出しています。手を抜いているつもりはまったくありません。それなのに、一年たっても売上の数字はほとんど変わらない。一人社長や少人数の会社の経営者の方から、よく聞く悩みです。
結論から先に書きます。頑張っているのに伸びないとき、足りないのは努力の量ではなく、努力を始める前の設計にある場合が多いと考えています。順番は、次の3つです。
- 役に立つ目標を立てる(「いくら欲しいか」ではなく「誰が払い、誰が喜ぶか」から目標を決める)
- 筋道の通った計画にする(目標を数字に分解し、「このままでは届かない場所」を見つける)
- 時間の置き場所を変える(一度やった仕事が何度も働く仕事に、時間を寄せる)
かえるちゃんが、売上目標の紙を見て、ぽつりと聞くことがあります。「この数字がかなったら、社長のほかに誰がうれしいの?」——本稿は、この問いから始めます。
頑張っても成果が出ない|一般的に言われていること
まず一般論です。「頑張っても成果が出ない」「売上目標が達成できない」という悩みには、よく次のような対策が挙がります。
- 目標を具体的な数字にする
- 期限を決める
- やることに優先順位をつける
- 毎日の行動を習慣にする
- 振り返りの時間をとる
どれも正しいことです。目標を数字にして期限を切るのは、多くの経営者がすでにやっています。
ただ、ここで一つ引っかかるのは、その数字が誰のための数字かという点です。数字も期限もあるのに伸びない会社では、目標そのものの立て方に、見えにくいずれが入っていることがあります。
違和感|目標・計画・努力が、ばらばらの方向を向いている
伸び悩んでいるときの状態を分けてみると、ずれはだいたい3つの場所で起きています。
- 目標が、自分の欲しいもので終わっている:「売上をこれだけ増やしたい」「収入をこれだけにしたい」で止まっていて、その先に誰がいるかが書かれていない
- 計画がざっくりしている:目標の数字はあるのに、何を何件、いくらで、どこから集めるのかまで下りていない
- 頑張る場所がずれている:一生懸命に動いているけれど、その動きが目標の数字にほとんどつながっていない
山登りにたとえると分かりやすいかもしれません。登る山を決めずに走り出すと、全力で走るほど、隣の山の中腹にたどり着いてしまいます。登る山を決めても、道とペースを決めなければ途中で息が切れます。努力の量を増やす前に、どの山に、どの道で、どの速さで登るかを決めておく必要があります。
| ずれる場所 | よくある状態 | 立て直しの問い |
|---|---|---|
| 目標 | 「売上をこれだけ」「収入をこれだけ」で終わっている | その売上は誰が払い、払った人は何を受け取るか |
| 計画 | 目標の数字だけがあり、中身が分解されていない | 何を何件、いくらで売り、そのために何人と話す必要があるか |
| 努力 | 目の前の作業に追われ、毎日同じ量の手間がかかる | 今日の仕事のうち、来月もかわりに働いてくれるものはどれか |
KAKUKATA視点|努力の前に決める3つのこと
ここからは、林英明が自分の会社の目標を考えるときに、いま試している順番です。決まった正解としてではなく、試しながら整えている途中の考え方として書きます。
1. 役に立つ目標|「誰が払い、誰が喜ぶか」を目標の横に書く
売上の目標を立てるとき、まず数字が浮かびます。ここで一度立ち止まって、その売上は誰が払うのかを考えてみます。
売上は、お客さまが払ってくださるお金の合計です。たとえば仮に、年に一定の売上を立てたいなら、それを何社・何人のお客さまが、いくらずつ払うのかが決まります。そしてお客さまは、払った金額より大きなものを受け取れると感じたときにしか払いません。つまり、売上の目標を立てることは、お客さまにどれだけの価値を返すかの目標を立てることと、ほぼ同じ意味になります。
そこで、目標を書くときは、次の3段で考えるようにしています。
- 自分は何を得たいか:ここは素直な欲でかまいません。ぼんやりさせず、はっきり書きます
- 誰に、どんな価値を届けるか:お客さまが何を得るのかを、できれば数字や状態で書きます
- 自分の得と相手の得を、どうつなげるか:お客さまがうまくいくほど、続けてもらえる・紹介してもらえる形になっているかを確かめます
この3段を書くと、目標は「自分のための数字」から「協力してもらえる理由がある数字」に変わります。「自分がもうけたいので手伝ってください」では、社員も取引先もお客さまも動きにくいものです。でも「この目標がかなうと、あなたの仕事もこう楽になる」と言えるなら、関わる人にとっても参加する理由が生まれます。
自分のためか、他人のためか、という二択の話ではありません。自分の成功と相手の成功が、同じ方向を向くように目標を組むという話です。
目標が決まったら、最後にかえるちゃんの問いを当ててみます。「この目標がかなったとき、自分以外に誰が喜ぶか」。誰の顔も浮かばないなら、その目標はまだ小さいのかもしれません。
反対に、目標がかなったときに自分が何を引き受け、何を手放すのかを確かめたいときは、売上目標に近づくほどしんどくなるも参考になります。目標の代償を書き出し、引き受けない仕事を一つ先に決める手順をまとめています。
2. 筋道の通った計画|計画は「できない場所」を見つけるためにつくる
目標と計画は、よく混ざってしまいます。「来年は売上をこれだけにする」は目標で、計画ではありません。計画は、その数字を分解するところから始まります。
分解のしかたは、たとえば次のような順番です。
- 売上は「お客さまの数 × 1件あたりの金額」
- お客さまの数は「話をした人の数 × 決まる割合」
- 話をした人の数は「知ってもらった人の数 × 相談に進む割合」
ここまで分けて、いまの自社の数字を入れてみると、たいてい「これは、いまのやり方では無理かもしれない」という場所が出てきます。気持ちが沈みそうになりますが、ここが計画の一番大事な仕事だと考えています。計画の役割は、できる気になることではなく、このままでは届かない場所を見つけることです。
届かない場所が見つかったら、目標をあきらめる前に、式のほうを変えられないかを考えます。
- 1件あたりの金額を見直せば、必要なお客さまの数は減る
- 決まる割合を上げれば、話をする人の数は少なくてすむ
- 続けてもらえる割合が上がれば、毎年ゼロから集め直さなくてすむ
ぜんぶを少しずつ良くする必要はありません。式を並べると、いちばん少ない手間で、いちばん大きく全体を動かせる数字がどれかが見えてきます。そこに時間とお金を集めます。営業の場面での数字の置き方は営業KPIの立て方にまとめているので、あわせて読んでみてください。
もう一つ、計画に入れておきたいのがやめる条件です。始めたことは、うまくいっていなくても続ける理由を探したくなります。「この数字がこの時期までにここに届かなければ、やり方を変える」と、冷静なうちに決めておくと、迷いが減ります。
3. 時間の置き場所|一度やった仕事が、何度働くかで選ぶ
最後が、頑張り方そのものです。ここで言う「懸命に働く」は、長く働くことではありません。同じ1時間を、どこに置くかの話です。
よく「てこの働き」という意味でレバレッジという言葉が使われます。平たく言えば、一度やった仕事が、そのあと何度働いてくれるかのことです。たとえば、毎回その場で説明している内容を一度きちんと文章にしておけば、その文章は、次の問い合わせのときにも、その次のときにも、かわりに働いてくれます。
仕事を、この見方で4つに分けてみます。
| 仕事の種類 | 例 | 一度やったあと |
|---|---|---|
| その場で消える仕事 | 毎回同じ質問への返信、その場しのぎの調整 | 終わったら何も残らない |
| 売上をつくる仕事 | 商談、提案、納品 | その案件の売上にはなるが、次はまたゼロから |
| 仕組みをつくる仕事 | 手順書、ひな形、問い合わせから相談までの流れ | 次から手間が減り、人に任せやすくなる |
| 資産をつくる仕事 | 検索で読まれる記事、よくある質問への答え、紹介される実績 | 自分が動いていない時間にも、お客さまを連れてきてくれる |
忙しいのに伸びないときは、上の2つに時間がほとんど吸われていることがよくあります。どれも必要な仕事ですが、ここだけで一日が埋まると、来月の自分を助けてくれるものが何も積み上がりません。
時間を節約するより、1時間あたりに生まれる価値を上げるほうに目を向けます。毎日少しずつでも、下の2つに時間を移していく。KAKUKATAでも、毎回の説明を記事やよくある質問の答えに置き換えることや、繰り返し出てくる作業をAIに下書きしてもらうことを、いま試しているところです。時間ではなく、相手に残る形で価値を届ける考え方は、伴走を「週○回」で売ると天井に当たるにも書いています。
実務|今日やること:目標を1枚の紙に「3段+分解+時間」で書き直す
新しい道具は使いません。紙1枚か、メモ1つで十分です。
- いまの目標を、そのまま書く:「売上をこれだけ」など、いつも頭にある数字をそのまま書きます。
- 「誰が払うか」を横に書く:その売上を払うのはどんなお客さまか、何社・何人くらいかを書きます。
- 「払った人が何を受け取るか」を書く:お客さまの手元に残るもの、楽になること、増えるものを書きます。
- 「自分以外に誰が喜ぶか」を書く:お客さま、社員、取引先など、顔が浮かぶ相手を書き出します。浮かばなければ、2と3を書き直します。
- 数字を分解する:お客さまの数、1件あたりの金額、決まる割合、相談に進む割合に分け、いまの実際の数字を入れます。
- 「このままでは届かない場所」に印をつける:いちばん差が大きい数字を1つだけ選びます。
- その数字を動かす方法を1つ決め、やめる条件も書く:「いつまでに、どこまで届かなければやり方を変えるか」を一行で添えます。
- 今週の予定から、何度も働く仕事を1つ入れる:手順書を1枚つくる、よくある質問の答えを1つ書く、などです。
書き出しのイメージです。以下は例です。
| 項目(例) | 書く内容(例) |
|---|---|
| 得たいもの | 来年の売上を〇〇にしたい |
| 誰が払うか | 〇〇に困っている少人数の会社、〇社くらい |
| 受け取るもの | 毎月の〇〇の手間が減り、本業に時間を使える |
| 自分以外に喜ぶ人 | お客さまの社員、紹介してくれた取引先 |
| 届かない場所 | 相談に進む割合が、必要な水準に足りない |
| 動かす方法 | よくある質問への答えを公開し、相談前の迷いを減らす |
| やめる条件 | 〇か月で変化がなければ、別の方法に切り替える |
よくあるつまずき
- 「誰が喜ぶか」を書いたものの、きれいな言葉だけで、具体的な相手の顔が浮かんでいない
- 分解して「無理そう」と分かった時点で、計画そのものをやめてしまう
- 届かない数字を全部直そうとして、どれにも手が回らない
- 何度も働く仕事を「時間ができたらやる」に回し続け、結局その場で消える仕事で一日が終わる
- やめる条件を決めず、うまくいっていない施策を惰性で続ける
利益を大きく生んでいるお客さまから考え直したいときは、いちばん利益をくれたお客さまから逆算するも参考になります。目標の「誰が払うか」を具体的にするときの手がかりになります。
よくある質問
「自分がもうけたい」という目標は、持ってはいけないのですか?
持ってかまいません。むしろ、ぼんやりさせずにはっきり書くほうが、計画を立てやすくなります。大事なのは、そこで止めずに「その分を誰が払い、払った人は何を受け取るか」まで書き足すことです。自分の欲しいものと、相手が受け取るものがつながっていれば、目標はずっと動かしやすくなります。
一人社長でも、目標を数字に分解する意味はありますか?
あります。一人で回していると、忙しさの手ごたえで「進んでいる」と感じやすく、どの数字が足りないのかに気づきにくいものです。お客さまの数、1件あたりの金額、決まる割合、相談に進む割合の4つに分けるだけでも、どこに時間を使うべきかがかなり見えてきます。
分解したら、とても届きそうにありません。目標を下げるべきですか?
すぐに下げる前に、式のほうを変えられないかを考えてみます。1件あたりの金額を見直す、決まる割合を上げる、続けてもらえる割合を上げる、といった変え方で、必要な数が大きく変わることがあります。それでも難しければ、期限を延ばすか目標を見直します。届かないと分かったこと自体が、計画が役に立った証拠です。
何度も働く仕事に時間を移したくても、目の前の仕事で手一杯です。
最初から大きく移す必要はありません。毎日同じ説明をしている内容を1つだけ文章にする、繰り返している作業の手順を1枚書く、といった小さな一歩からで十分です。その1つが次の週の手間を減らし、空いた時間をまた次の1つに回せます。下書きや整理はAIに手伝ってもらうと、始めるまでの重さが軽くなります。
前に書かれていた「始まるまでの日数を測る」話とは、何が違いますか?
忙しいのに前に進まないでは、すでに動いている案件の中で、どこに待ちが詰まっているかを見つける方法を書きました。本稿はその一つ手前で、そもそも何を目指し、どの数字を動かし、どこに時間を置くかを決める話です。目標を立て直してから、日々の流れの詰まりを見る、という順番で組み合わせると考えやすくなります。
まとめ|次に決めること
頑張っているのに会社が伸びないときの論点は、努力の量ではなく、努力を始める前に何を決めたかです。誰を幸せにする目標かを決め、数字に分解して届かない場所を見つけ、一度で何度も働く仕事に時間を寄せる。この順番で考えます。
- いまの売上目標の横に、「誰が払い、払った人は何を受け取るか」を書けるか
- 目標を数字に分解し、「このままでは届かない場所」を1つ選べるか
- 今週の予定に、一度やれば何度も働いてくれる仕事を1つ入れられるか
この3つが決まると、「毎日がんばっているのに何も変わらない」状態から、「どの山に、どの道で登っているかが分かっている」状態へ近づきやすくなります。まずは今日、いまの目標の横に「この目標がかなったら、自分以外に誰が喜ぶか」を一行書くところからで十分です。
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