先に結論
士業・会計事務所が生成AIを入れるときは、ツールより先に入れる業務と入れない業務を分けます。最初に向くのは、人が最終確認できる転記・下書き・既存フローの整理です。
士業・会計事務所が生成AIを入れるときは、ツール選びより先に、入れる業務と入れない業務を分けます。最初に向くのは、転記、下書き、既存フローの整理のように、人が最終確認できる作業です。法律相談の代行はしません。戸籍の取得代行もしません。この記事では、最初に入れる業務、入れてはいけない業務、古い会計ソフトでも始められる理由、研修だけで終わらない条件、顧客データの扱い、90日の進め方を、全国の事務所向けに整理します。地域名は主語にしません。資格者の判断を、生成AIに置き換える話でもありません。
この記事でわかること:
- 最初に入れる業務と、入れてはいけない業務
- 会計ソフトが古くても始められる理由
- 研修だけで終わらない条件
- 顧客データの扱い
- 事務所向けの90日の進め方
想定読者: 生成AIを業務に入れたい士業・会計事務所。資格者の判断をAIに置き換える話ではない。全国向け。
最初に入れる業務
最初に入れるのは、成果物の責任が人に残る作業です。法人税申告まわりで言えば、画面の数字を人が確認したうえで、ExcelやCSVの変換、既存の自動化フローの読み解き、下書きの作成、が候補になります。
KAKUKATAが伴走した税理士事務所では、API非対応の弥生会計でも、法人税申告フローを半自動化できました。ポイントは、会計ソフトを乗り換えることではなく、「出す→変換→入れる」に分解したことです。詳細は弥生会計はAPI非対応でもAIで自動化できるにあります。
その現場では、見た目はRPAで自動化済みでも、ソフトの年度版や画面の配置が変わると止まり、直せる人が限られる、という状態でした。AIに既存フローを読ませて移植する、CSVインポートに置き換えられる部分を探す、判断が残る項目は空欄のまま人に返す、という3つに分けています。最初に入れる業務は、この「人が見て直せる下書き」側です。
戸籍や古文書の読み取りでも、同じ線引きです。くずし字の下読みはAIに任せても、確定は人間が行います。読めない字を推測で確定させません。当社の古文書まわりの支援も、手元資料の下読みと整理が範囲です。除籍謄本の読み方でも、取得代行や相続手続きの代行は行わない、と分けています。
採用業務で候補者情報を扱う場合も、入力範囲と保存のルールを先に決めます。候補者情報を採用AIに入れるときの安全な扱いは採用で生成AIに候補者情報を入れてよいかに整理しています。履歴書や面接メモを、認めていない個人アカウントへ貼るのは、最初の業務に含めません。
入れてはいけない業務
次は、最初から外します。
- 法律相談そのもの、法律事務の代行
- 戸籍謄本等の取得代行、相続人の確定
- 税務判断や申告内容を、人の確認なしに確定すること
- 顧客の個人情報・未公開契約・認証情報を、会社として認めていないツールへ貼ること
- AIの出力を、そのまま顧客への最終回答にすること
生成AIは下書きを速くします。出力を世に出した責任は、人と事務所に残ります。顧問先の相談をAIに肩代わりさせる使い方は、業務範囲としても、品質としても向きません。
身元調査や、出自に関わる調べものに戸籍資料を使うことも行いません。これは人権侵害にあたります。
士業のサイト集客でも、同じ線です。一般的な手続きの説明と、個別の法律判断は分けます。記事で「相談してください」と書くことと、AIに相談を肩代わりさせることは違います。相続の入口設計は相続の集客方法6選を、Webの問い合わせ設計はPVはあるのに問い合わせが増えないを見てください。
会計ソフトが古くても始められる理由
「APIがないから無理」は、よく聞く諦めです。デスクトップ版の弥生会計のように、外部のAIから直接読み書きできる公開APIがないソフトでも、Excel / CSVの書き出しができるなら着手できます。
実務では、次の3つに分けます。既存のRPA定義をAIに読ませて移植する。画面操作よりCSVインポートに置き換えられる部分を探す。判断が残る項目は人に残す。100%の自動化を狙うと壊れやすいです。判断の部分を人に残す方が、事務所で回りやすいです。
乗り換えが先ではない理由もあります。顧問先ごとの過去データと申告ソフトまで含めると、移行コストが大きくなりやすいです。今の道具のまま、つなぎ方だけを変える方が現場を壊しにくいことがあります。
販売管理や給与、業界特化ソフトでも、ExcelやCSVを出せるなら同じ型を試せます。ただし、勘定科目と申告側の項目が1対1でないことは、弥生の実例でも起きています。売掛金の内訳に未収入金を書く、補助科目の粒度が会社ごとに違う、といったずれです。会社ごとの対応表(マッピング)を残し、AIはそれを参照して変換する、人が最終欄を見る、という順です。対応表が無い状態で「全部任せる」のは、最初の90日には向きません。
研修だけで終わらない条件
一般向けの生成AI講座だけでは、自社の仕事に結びつかないことがあります。会計税務を扱う株式会社オーパスワンの高久さんも、一般講座では自社業務につながらなかった、という経緯があります。講座で操作を知ることと、事務所の申告フローや顧客データの扱いに落とすことは、別の作業です。
研修で終わらせない条件は、次です。
- 対象を「自社の1フロー」に限定する
- 画面を共有し、今の手順を一緒に見る
- 入れてよい情報と、人の確認位置を文書にする
- 止まったときに直せる人が事務所側に残る
AI顧問の役割は、ツールを渡して終わることではありません。使いどころの設計、手順のテンプレ化、運用の更新です。考え方はAI顧問とはでも整理しています。
伴走の現場では、資料のやり取りだけではフローが分からないことが普通です。どのフォルダに何があるか、どの画面のどのボタンを押しているか、なぜその数字をそこに入れるか、は画面を見てはじめて設計できます。研修資料を配って終わり、にしない理由はここにあります。操作を知ることと、今の事務所の手順を壊さないことは、別の仕事です。
顧客データの扱い
顧客データを扱う前に、社内ルールの見出しを先に決めます。入力してよい情報、禁止事項、人の確認、保存場所、ログ、責任分界です。ひな型と考え方は会社で生成AIを安全に使うルールの作り方にあります。本記事は実務の整理であり、法的助言ではありません。
無料プランや個人契約のまま、顧問先資料を貼る運用は避けます。学習設定、管理、ログ、権限を会社として揃えにくいためです。どうしても社外に出せない資料は、ローカルLLM(自社が管理する環境で動かすAI)を選択肢にします。費用の見方は機密資料を外に出さないAI導入を参照してください。
迷ったら入力しない、社外に出す成果物は必ず人が見る、を原則にします。
ルールは、最初から分厚い規程にしなくてよいです。A4で1枚、禁止と使ってよい範囲、相談窓口、見直し時期、があれば現場は動きやすいです。禁止だけ並べると、誰も使わなくなります。公開済みの一般情報は使ってよい、顧客の個人情報は入れない、のように明るく範囲を示します。生成AIのサービス仕様は変わりやすいので、モデル発表のたびに、学習設定と管理者のオンオフだけは見ます。
進め方90日
90日は、全業務を入れ替える期間ではありません。1フローを試し、続けるかを決める期間です。最初の90日の骨格は生成AI導入は何から始める?と同じです。
- 1〜30日:現行フローの棚卸し。誰が、どのソフトで、何を、どこへ転記しているかを書き出す。禁止業務と入力ルールを1枚にする
- 31〜60日:機密の低い、または許可したデータだけで、下書きか変換を1本試す。出力は人が確認する。止まった箇所を記録する
- 61〜90日:残す作業、人に戻す作業、使ってよいツールを決める。担当と保存場所を固定する
成果の数字は、試す前には書けません。先に見るのは、手順が言語化されたか、確認位置が決まったか、顧客データが個人アカウントに散らばっていないか、です。時間削減の見込みや、受件数の増加は、この段階では書きません。
90日の終わりに残す成果物は、使ってよいツール一覧、入力禁止、1フローの手順メモ、確認者の名前、です。次の90日で業務を広げるかは、その4点が揃ってから決めます。揃わないまま職員全員にアカウントを配ると、研修後と同じ状態に戻りやすいです。
よくある質問
Q1: 法律相談をAIに答えさせてよいですか。
法律相談の代行はしません。一般的な情報の整理と、資格者による相談・受任は分けてください。当社も法律相談や戸籍取得の代行は行いません。
Q2: 弥生会計が古くても始められますか。
エクスポートができるなら、変換と取り込みから試せます。詳細は弥生会計はAPI非対応でもAIで自動化できるを見てください。
Q3: 職員向け研修をすれば定着しますか。
操作説明だけでは、自社フローに落ちないことがあります。対象業務を1つに限り、画面を見てからテンプレにします。
Q4: 顧客データをクラウドの生成AIに入れてよいですか。
会社が認めたツールと、入力してよい範囲が決まってからにします。出せない情報は、ローカルLLMや人手の作業に戻します。
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